骨髄抑制
(2)血小板減少と貧血

自治医科大学附属病院臨床腫瘍科
長瀬 通隆/Michitaka Nagase
(現 臨床腫瘍部)
藤井 博文/Hirobumi Fujii
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血小板減少

 化学療法に由来する血小板減少は,血小板産生の低下によるものである。大半の抗癌剤は白血球減少をきたすが,同時に血小板減少も発現する可能性がある。しかしながら,血小板減少の副作用のために投与量が規定された抗癌剤は少ない。

 実際には,化学療法を行う場合にはいくつかの薬剤を組み合わせて行うことが多いため,骨髄抑制が高頻度かつ高度になりやすい。血小板減少が投与規制因子となる薬剤としては,カルボプラチン,ニムスチン,ラニムスチン,ゲムシタビンなどがあげられる1)。また,マイトマイシンやラニムスチン,ニムスチンは血小板減少時期の出現が投与から3〜4週目ぐらいと遅く,繰り返し投与にて遷延化する場合があり注意が必要である。主な抗癌剤の血小板減少時期(nadir)と回復時期を表1に示す。

 一方で化学療法中に出現してくる血小板減少は,原疾患に由来するもの,副作用の合併症による間接的な発症もあるため,上記の抗癌剤以外でもきたすことを念頭におかねばならない。

 血小板減少に対する有効な手段は,血小板輸血を行うことしかない。血小板数が20,000/μl以上あれば,血小板減少による出血のリスクはほとんどない。また,血小板数が10,000/μl以下の場合は出血傾向をきたす割合が20〜40%とされている。一般的な血小板輸血の適応は20,000/μl以下であるが,維持すべき血小板数の基準は,基礎疾患,年齢,合併症など患者の状態により異なる。2001年にASCOから発表された血小板輸血に関するガイドライン(表2)も,基本的には現状の血小板輸血の適応と同様と考えてよい。予防的血小板輸血については推奨されてはいるものの,エビデンスレベルはWであり推奨グレードもBとなっている。これは治療的血小板輸血と予防的血小板輸血の無作為化比較試験がないにもかかわらず,予防的血小板輸血が標準的な実地医療となっているためである。たんに血小板の数でその適否を決定するのではなく,個々の症例の病態に応じた判断が求められる。

 血小板輸血を行うときの注意点を以下に示す1)

(1) 血小板1単位(全血200ml由来)につき,0.1〜0.2×1011個以上の血小板を含有する。

(2) 調製された血小板製剤は,輸血するまで室温(20〜24℃)で水平振盪しながら保存する。

(3) 有効期間は採血後72時間であるが,血小板機能を考慮するとなるべく早期の使用が望ましい。

(4) 原則としてABO適合血小板を用いる。

(5) 成人では1回10〜20単位の血小板濃厚液を輸血し,翌日の状態に応じて以降の輸血を計画する。小児では体重15kg以下では1回5単位,20kg以上では1回10単位輸血する。

(6) 予想される予測血小板増加数は以下の計算式により求められる。

 予測血小板増加数=輸血血小板総数÷循環血液量(ml)×2/3(脾臓でのトラップ)×10−3

 輸血血小板総数=0.2×1011×輸血血小板単位数,循環血液量(ml)=体重(kg)×75

(7) 放射線照射(15〜20Gy)を行い,白血球除去フィルターを使用する。

(8) 血小板輸血実施後の血小板数増加の評価は,輸血後1時間前後,あるいは20時間前後の補正血小板増加数(Corrected count increment;CCI)により行う。CCIは次式により行う。

 CC(I /μl)=血小板増加数( /μl)×体表面積(m2)÷輸血血小板総数(×1011

 通常の合併症などのない場合には,血小板輸血後1時間前後のCCIは,少なくとも7,500〜10,000/μl以上である。

(9) 血小板輸血後に血小板数の増加しない状態を血小板輸血不応状態という。血小板数の増加しない原因には,同種抗体などの免疫学的機序によるものと発熱,感染症,DICなどによる非免疫性がある(表3)。血液中のHLA抗体の存在が確認された場合,HLAの適合したドナーからの血小板輸血を考慮する。

 海外では,血小板増多因子としてIL-11(Nuemega)が市販されている。Thrombopoietinは期待されたほどの有効性を示すことができなかった。

表1
主な抗悪性腫瘍薬の血小板減少時期(nadir)と回復時期1)
表2
癌患者における血小板輸血に関するASCO ガイドライン(一部抜粋)2)
 
表3
血小板輸血不応状態の原因

貧血(赤血球減少)

 癌患者では,貧血(赤血球減少)は化学療法のみならず,さまざまな要因(出血,鉄欠乏,化学療法,放射線療法,脾腫,骨髄浸潤など)によって発現する1)。化学療法を受けた患者の約30%でHb濃度が10g/dl以下になる。また,この貧血に伴い,倦怠感,めまい,呼吸困難などの症状が発現することから,QOLを低下させる重要な要因となっている。

 大半の抗悪性腫瘍薬はある程度の赤血球減少作用を有するが,とくにCDDP,cyclophosphamide,methotrexateなどが代表的である1)。赤血球の寿命は120日と長いため,白血球減少や血小板減少に比べ緩やかに発現する傾向にあるが,多剤併用や治療の継続に伴い著明な貧血をきたすこともあり,注意が必要である。

 まずは,具体的な貧血要因の検索を行う必要がある。具体的には,出血源の検索(便潜血,消化管内視鏡),鉄欠乏の有無(血清鉄,不飽和鉄結合能,フェリチン),葉酸欠乏,ビタミンB12欠乏,脾腫の有無,骨髄浸潤の有無を検索する。

 化学療法後の貧血に対して,海外ではerythropoietin(EPO)製剤が承認され,NCCNやASCO 3)によるガイドラインで使用が推奨されている。一方で,頭頸部癌や乳癌を対象としたEPOを投与するしないの比較試験において,投与群において予後や局所制御が悪化することが報告されており4),使用には慎重にならざるを得ない。現在わが国でもEPOの治験が行われているが,エンドポイントが貧血の改善,輸血回避になっており,本来求められているこの薬剤の目的を見据えた試験を組んでいかなければならない。

 国内の実地医療で,貧血に対応できる方法は輸血のみである。一般的な赤血球輸血の適応はヘモグロビン値7〜8g/dl以下である。全血200ml由来の濃厚赤血球1 単位(140ml)には約30gのヘモグロビンが含まれており,予測上昇Hb値は以下のようになる。

 予測上昇Hb値(g/dl)=輸血Hb量(g)÷循環血量(dl)=30×輸血単位数÷0.75÷体重(kg)

 輸血に際しては,輸血後GVHD防止のため,放射線照射(15〜20Gy)を行い,白血球除去フィルターを使用する。輸血の効果は,循環血液量が定常化する24時間後に判定するが,投与後のHb値を10g/dl以上に補正する必要はない。輸血のリスクとして肝炎やHIVなどの感染症,アレルギーや発熱なども存在しており,実施に関しては患者・家族の意思,宗教などの背景,合併症などもあり,やみくもに行うことはできない。また,合併症や高齢者など,全身状態に応じた輸血の適応,輸血量,貧血改善度を考慮して行う必要がある。

●文献
1) 山本昇,他:化学療法有害反応の対策.日本臨床腫瘍学会編,臨床腫瘍学,第3版,癌と化学療法社,東京,2003,pp1136〜50.
2) Schiffer CA,et al:Platelet transfusion for patients with cancer:Clinical practice guidelines of the American Society of Clinical Oncology.J Clin Oncol 19:1519〜38,2001.
3) Rizzo JD,et al:Use of epoetin in patients with cancer:Evidencebased clinical practice guidelines of the American Society of Clinical Oncology and American Society of Hematology.J Clin Oncol 20:4083〜107,2002.
4) Leyland-Jones B,et al:Maintaining normal hemoglobin levels with epoetin alfa in mainly nonanemic patients with metastatic breast cancer receiving first-line chemotherapy:A survival study.J Clin Oncol 23:5960〜72,2005.
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巻頭言.抗癌剤の副作用;予期して臨むことの大切さ
1.消化器症状 (1)内科の立場から;消化器症状に対する支持療法
1.消化器症状 (2)外科の立場から
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2.骨髄抑制 (2)血小板減少と貧血
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