細胞診と生検検体の病理診断

国立がん研究センター中央病院臨床検査部病理検査室
佐々木 由佳/Yuka Sasaki
津田 均/Hitoshi Tsuda
PDF Download スライドと音声で閲覧できます
Web Cast

はじめに

 穿刺吸引細胞診および針生検は,乳腺腫瘤や検診でみつかった乳腺病変の確定診断を行うために重要な検査である。また,近年の乳癌に対する術前全身療法の普及により,乳癌と診断された針生検標本に対してのホルモン受容体やHER2(human epidermal growth factor receptor type 2)蛋白質過剰発現の検索も針生検で行われることが多くなり,患者の治療方針の決定に重要な意義をもつようになった。

 本稿では,細胞診と針生検病理診断の報告様式,ならびに針生検標本を用いたホルモン受容体とHER2 過剰発現の判定方法につい概説したい。

穿刺吸引細胞診の報告様式

 日本乳癌学会では,従来のパパニコラウ分類(クラス分類)に代わって,『乳癌取扱い規約第15 版(2003年)』以降,新たな細胞診の報告様式を推奨している。新報告様式は判定区分と所見からなり,判定区分では,まず標本が診断に適しているか否か(検体適正/不適正)を判定し,検体適正の場合,さらに「正常あるいは良性」,「鑑別困難」,「悪性の疑い」,「悪性」の4 つに分類する。所見では,検体不適正の場合はその理由を明記し,適正の場合は判定した根拠を具体的に示すとともに,可能な限り推定される組織型を記載する1)

 検体不適正には,乾燥,固定不良,細胞挫滅などの標本作製不良検体,または採取された細胞がごく少量で診断が著しく困難な標本が分類される。検体適正のうち「正常あるいは良性」には正常乳管上皮のほか,線維腺腫,乳管内乳頭腫,良性葉状腫瘍などの良性腫瘍や,乳腺症,嚢胞,乳腺炎,脂肪壊死などの非腫瘍性病変が含まれる。「鑑別困難」は細胞学的に良・悪性の鑑別が困難な病変で,乳頭状病変(乳管内乳頭腫や乳頭型非浸潤性乳管癌),上皮増生病変(乳管過形成,異型乳管過形成,低異型度乳癌),上皮- 結合織増生病変(境界病変の葉状腫瘍,一部の乳腺症型線維腺腫)などが含まれる。「悪性の疑い」には主に異型の少ない非浸潤癌や小葉癌などが含まれる。「悪性」は乳癌および非上皮性悪性腫瘍である。「鑑別困難」や「悪性の疑い」の症例は,再検査あるいは針生検,切開生検などの組織診を行うことが推奨される。

針生検検体の病理診断

 乳腺の針生検には,通常の針生検と,吸引式組織生検がある。吸引式組織生検としてマンモトーム生検が広く使用されているが,コードレスで,より多くの量の組織を採取できるVacora Vacuum Assisted Biopsy System が2003年にアメリカで発売されて以来,Vacora 生検による検体も増加している。

 2003 年の『乳癌取扱い規約第15版』から掲載されている針生検の報告様式は判定区分と推定組織型からなり,判定区分の様式は細胞診と同様である。検体不適正は微小な標本や,圧挫などの変性のため診断に適さない標本である。検体適正のうち「正常あるいは良性」は,乳腺や脂肪,結合織のみで病変を同定できないか,目的の病変が採取されていない症例,もしくは乳腺症や線維腺腫など明らかに良性と診断可能な病変である。「鑑別困難」は,病変は確実に採取されているが,良・悪性の鑑別が難しい病変である。鑑別困難例は,鑑別すべき組織型を明記する。「悪性の疑い」は,悪性が強く疑われるが,病変の量が少なく悪性としての確定診断ができない標本である。「悪性」は明らかに悪性としての組織診断が可能な病変を指す。「鑑別困難」で臨床的に良性が疑われるものは慎重な経過観察が,「鑑別困難」で臨床的に悪性が疑われるものと「悪性の疑い」の症例は再生検もしくは切開生検が望ましい。大部分の病変はこの報告様式で判定可能であるが,病変のすべてを検索して診断するわけではないので,後の切開生検や手術標本の組織型と必ずしも一致しないことがあることに留意する。

ホルモン受容体の判定

 ルーチンで測定されるホルモン受容体にはエストロゲンレセプターα(ERα,通常ERと略)とプロゲステロンレセプター(PgR)があり,いずれも核に局在する。乳癌原発巣でのER,PgR の発現は内分泌療法の感受性,患者の生命予後と強く相関する。ホルモン受容体の測定は免疫組織化学(IHC)法で行われ,内分泌療法適応の決定に用いられる。わが国では,IHC 法の判定基準としてAllred スコア分類とJ-score 分類の2つがよく用いられる。

 Allred スコア分類は,染色された細胞の占有率と染色強度を判定し,これら2 つの値を合計して8段階に分類したもので,3 以上を陽性と判定する1)図1)。Allredスコア分類は,以前ホルモン受容体の判定に使用されていた免疫学的測定法(EIA法)に比べて精度が高いことが示されており,ERについてのAllred スコア分類はホルモン療法の効果予測因子となることが知られている2)。難点は,評価手順がやや煩雑であること,染色強度評価が一般化されていないことなどであり,判定には十分な精度管理が必要となる。実際にはER の免疫染色においてAllredスコアの大部分は0 または7,8 であることが報告されている。

 J-score分類は,陽性細胞の比率のみによる評価法で,1%,10%で陽性率を区分し,10%以上の腫瘍細胞が陽性の場合を陽性と判定する(表13)。この判定法は,Allredスコアに比べて判定が簡単であり,観察者間の再現性が高いとされる。2009年のSt. Gallenコンセンサス会#議のレポートでは染色強度にかかわらず1%以上の陽性細胞であった場合に内分泌療法の適応と考えることが推奨されている。いずれの分類でも,乳癌では,腫瘍内のER,PgRの発現が不均一な例が少なくないため,腫瘍切片全体として総合的に判断することが望まれる。また,背景乳腺で陽性コントロールと陰性コントロールの染色性を評価し,判定に適した標本かどうかを確認することも重要である。ホルモン受容体の免疫染色性は標本の質にも影響されるため,針生検採取後すぐに固定し,固定は48時間以内にとどめることが望ましい。

図1
エストロゲン受容体(ER)免疫染色のAllredスコア分類
表1
J-scoreによるホルモン受容体判定法

HER2 過剰発現の判定

 HER2 蛋白は,細胞膜を貫通して存在する増殖因子受容体で,細胞増殖のシグナル伝達にかかわっている。乳癌症例の10〜20%においてHER2遺伝子の増幅とHER2蛋白の過剰発現が認められる。HER2 過剰発現は,腫瘍径やリンパ節転移とは独立した予後不良因子として知られている。HER2 過剰発現乳癌に対しては,HER2 蛋白に対するヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)が有用であることが知られており,現在,転移性乳癌に加え,手術可能乳癌における術後補助療法として化学療法薬との併用が行われている。さらに,術前全身療法としてのトラスツズマブ投与の有用性が報告され4)5),針生検標本でのHER2 過剰発現の評価も一般化している。

 HER2 の検査法には,HER2 蛋白過剰発現を評価する免疫組織化学(IHC)法と,HER2 遺伝子の増幅を検出する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法の2種類がある。IHC 法では,HER2の癌細胞細胞膜への染色の程度により,スコア0〜3+の4種類に分類され,3+を陽性,2+を境界域,0と1+を陰性,と判定する(表2)。FISH 法ではHER2 シグナル総数と,対照となるCEP17(centromere probe of chromosome 17)シグナル総数の比が2.2 を超える場合を陽性とする(表3)。IHC法で2+の乳癌症例のうち,FISH陽性例はIHCスコア3+の症例と同等のトラスツズマブ奏効率を示すが,FISH 陰性例は治療反応性が乏しいという報告がある。

 2007年改訂の『米国臨床腫瘍学会(ASCO)/米国臨床病理医協会(CAP)ガイドライン』に沿ってトラスツズマブ病理部会が作成したHER2検査フローチャート(図2)では,最初にIHC法を行いスコア2+の場合にはFISH法による再検査を行うことが推奨されている。また,最初からFISH法にて検査を行うという選択肢もある。針生検でHER2過剰発現の評価を行う際の問題点としては,IHC法では陽性癌細胞の比率によりスコア0と1+〜3+の判定を行うため,陽性細胞の比率が比較的低い陽性症例は,針生検で偽陰性となる可能性がある。また,HER2過剰発現の評価は浸潤癌で行うのが原則で,非浸潤癌と浸潤癌で染色性の異なる腫瘍もあるため,非浸潤癌のみが針生検で採取された場合の評価は参考値となる。

表2
IHC 法によるHER2 蛋白過剰発現の判定基準(2007 ASCO/CAP ガイドライ
ンによる改訂版)
表3
FISH 法によるHER2 遺伝子増幅の判定基準(2007 ASCO/CAP
ガイドラインによる改訂版)
図2
トラスツズマブ治療適応決定のHER2
検査フローチャート(2009 トラスツズマブ
病理部会)

結語

 細胞診と生検検体の組織診断は,病変の確定診断や治療適応決定に有用である。これらの診断法は病変の一部のみで判断するため,完全ではないことを知ったうえで,患者の治療計画を進めることが肝要である。

 細胞診や針生検では,臨床情報や画像所見との対比による総合的な判断が正確な病理診断,細胞診断の助けになることがある。検査依頼用紙には,ぜひ臨床経過,病変の部位や大きさ,画像所見などを記載していただきたい。

●文献
1) 日本乳癌学会編:乳癌取扱い規約,第16版,金原出版,東京,2008.
2) Allred DC,et al:Prognostic and predictive factors in breast cancer by immunohistochemical analysis.Mod Pathol 11:155〜68,1998.
3) 梅村しのぶ,他:「適切なホルモンレセプター検索に関する研究」班班研究報告書,2006.
4) Burstein HJ,et al:Preoperative therapy with trastuzumab and paclitaxel followed by sequential adjuvant doxorubicin/cyclophosphamide for HER2 overexpressing stage II or III breast cancer:A pilot study.J Clin Oncol 21:46〜53,2003.
5) Buzdar AU,et al:Significantly higher pathologic complete remission rate after neoadjuvant therapy with trastuzumab,paclitaxel,and epirubicin chemotherapy:Results of a randomized trial in human epidermal growth factor receptor 2-positive operable breast cancer.J Clin Oncol 23:3676〜85,2005.
メニューページへもどる
巻頭言「乳癌初期治療心得十二箇条」
画像診断の進め方
生検の実際
細胞診と生検検体の病理診断
センチネルリンパ節生検と腋窩リンパ節郭清
乳癌初期治療における放射線治療
乳房切除と乳房温存;最近の考え方,適応の決定
乳癌の術前化学療法
術後薬物療法;基本的考え方(病型分類,リスク,閾値の考え方)
術後薬物療法の実際(1)Luminal A・B乳癌の術後治療の進め方
術後薬物療法の実際(2)HER2過剰発現乳癌の術後治療の進め方