進行・再発大腸癌に対する化学療法の目的と実際

愛知県がんセンター中央病院薬物療法部
室 圭 / Kei Muro
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はじめに

 大腸癌治療の主軸は外科的切除術であることは衆目の一致するところであるが,切除不能大腸癌では全身化学療法に頼らざるを得ない。10年前までは大腸癌における抗癌剤といえば5-フルオロウラシル(5-FU)しかなく,化学療法では奏効がほとんど期待できない癌腫の代表であった。このような暗黒の時代を経て,最近10年で格段の進歩を遂げた。すなわち,イリノテカン(CPT-11)やオキサリプラチン(L-OHP)など新規抗癌剤と,ここ数年の分子標的治療薬の導入である。治療成績は大きく延び,大腸癌化学療法は新しい時代を迎えたといえる(図1)。

図1
大腸癌に対する化学療法の変遷
図1 大腸癌に対する化学療法の変遷

5-フルオロウラシル(5-FU)療法と化学療法のベネフィット

 2000年BMJ誌に,進行・再発大腸癌に対するbest supportive care(BSC)群と5-FU系ベースの化学療法を行った群との13の無作為化比較試験(RCT)をsystemic reviewしたメタアナリシスの結果が報告され,全866 名の検討で生存期間中央値(MST)はBSC 群で8.0カ月,化学療法群で11.7 カ月,全生存期間(OS)に対するハザード比は0.65(95%信頼区間〔CI〕:0.56-0.76)と,化学療法を行うことによる生存期間延長が確認され,ベネフィットが証明された1)

 その後,5-FU の抗腫瘍効果増強を目的としてさまざまな併用療法(biochemical modulation)が試みられ,1980 年代以降,5-FU とロイコボリン(LV)の併用療法が有効性と毒性においてもっとも優れた治療法であることが認知されるようになった。その後,5-FUの急速静注と持続静注療法を組み合わせた5-FU+LV療法,いわゆるde Gramont 療法が確立し,欧州を中心に広まり,FOLFIRI療法やFOLFOX 療法へと発展していくベースとなった。

CPT-11とFOLFIRI療法

 1990年代に入ると,わが国で創薬されたCPT-11がまず単剤でその有効性が確認され2),1994 年,CPT-11は世界に先んじてわが国で大腸癌治療薬として承認された。しかし,その後は欧米を中心に臨床試験が展開され,まず,5-FUが無効となった大腸癌の二次治療におけるBSC療法 vs. CPT-11単剤の比較試験から,CPT-11のOS延長およびQOLの優位性が立証され,CPT-11は二次化学療法の標準的治療として確立された。

 2000年,米国からは5-FU+LVの急速静注法とCPT-11を組み合わせたIFL療法の,欧州からは持続静注主体の5-FU+LV(de Gramont)療法とCPT-11 を組み合わせたFOLFIRI 療法の,それぞれ5-FU+LV療法とを比較する大規模なRCT が報告され,いずれも5-FU+LV療法に比べて2倍近い奏効率と2〜3カ月のMSTの延長が示された。このCPT-11+5-FU+LV療法は一次治療としてのエビデンスが確立し,世界中に広く受け入れられるようになった。その後の検討から,急速静注法のIFL療法は,持続静注主体のFOLFIRI療法に比べ,高度の骨髄抑制や下痢などの有害反応が出やすく,それによる治療関連死も少なくないことが明らかとなったため,実地臨床での使用機会は減った。現在,CPT-11の標準的な投与方法は,単剤かFOLFIRI療法のいずれかである。

L-OHPとFOLFOX療法

 L-OHPは1976年に日本で合成された,第3世代の白金製剤である。L-OHP の臨床導入として最初のpivotal studyは欧州から報告されたL-OHP+5-FU+LV(FOLFOX4)療法vs. 5-FU+LV(de Gramont)療法の比較試験である。奏効率,無増悪生存期間(PFS)では有意にFOLFOX4群で優れた結果が得られたものの,OS での有意差までは認められなかった3)。その後,IFL療法後の二次治療としてFOLFOX4療法と5-FU + LV(de Gramont)療法,L-OHP単剤の3群の比較試験が報告され,プライマリーエンドポイントであるPFSにおいて有意にFOLFOX4群が良好である結果が得られた。2004 年,Goldbergs は一次治療例を対象としてIFL 療法,FOLFOX4 療法,L-OHP + CPT-11(IROX) 療法の3 群比較を報告し,FOLFOX4療法が奏効率(45%),PFS(中央値8.7 カ月),OS( 中央値19.5カ月)のいずれにおいても他の治療法より優れており,かつ毒性が少ないことを示した4)。現在,わが国におけるL-OHP の承認用量は85mg/m2 であり,その関係からFOLFOX4療法もしくはmFOLFOX6療法が保険適用され,より簡便なmFOLFOX6 療法が繁用されている。

分子標的治療薬の台頭と臨床導入

 現在,大腸癌領域において臨床導入されている分子標的治療薬は大きく2 つの種類に分けられる。すなわち,血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)抗体薬と上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor monoclonal antibody;EGFR)抗体薬である。前者の代表がベバシズマブ,後者がセツキシマブおよびパニツムマブである(図2)。

図2
3つの抗癌剤と2種類3つの分子標的治療薬
図2 3つの抗癌剤と2種類3つの分子標的治療薬

A. ベバシズマブ

 VEGFに対するヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブ(アバスチン®)は,とくに抗VEGF-A抗体であり,血液中のVEGF-Aに結合することで,受容体への結合をブロックし,それ以下のシグナルを遮断する働きがある。

 本剤はまず進行大腸癌においてその有用性が検証され,IFL+ベバシズマブ(5mg/kg/2weeks)療法vs. IFL 療法+ placebo の比較試験からOSの有意な延長が確認された。その後,5-FU,CPT-11(IFL)治療後の二次治療としてベバシズマブとFOLFOX4併用療法のOSに対する有用性も明らかになった。このように,化学療法剤との併用により,一次治療例と二次治療例での有用性が報告され,本剤が大腸癌化学療法のkey drugの1つであるという認識を確固たるものにした。ただし,本剤に特徴的な毒性である,血栓塞栓症・出血・高血圧・蛋白尿・消化管穿孔には注意が必要である。

B. 抗EGFR抗体薬(セツキシマブとパニツムマブ)

 セツキシマブはEGFRに結合することにより細胞増殖を阻害し細胞死を誘導する抗EGFRキメラ型モノクローナル抗体であり,パニツムマブは完全ヒト化抗体である。セツキシマブに関して,最初にCPT-11に不応となった大腸癌の二次,三次治療としてCPT-11との併用療法での有効性が報告された。その後,5-FU,L-OHP,CPT-11抵抗性の三次治療として,セツキシマブvs. BSCの比較試験が報告され,セツキシマブ群がOS,PFSいずれも有意に優れていた。その後,FOLFOX療法後の二次治療としてCPT-11+セツキシマブ療法はCPT-11に対してOSにおける優越性を立証できなかったがPFSでの優越性を明らかに認めた。さらに,一次治療としてFOLFIRI+セツキシマブのFOLFIRI療法に対するPFSの優越性が証明された。同様にパニツムマブも化学療法抵抗性におけるBSCとの比較での有用性の報告を皮切りに,すべての治療ラインでの有用性が明らかにされた。これらの薬剤の治療効果と腫瘍組織におけるKRAS遺伝子変異の有無とは密接な関係がある。KRAS遺伝子変異例ではセツキシマブやパニツムマブの治療効果は期待できないので,KRAS遺伝子野生型に限ってこれら抗EGFR抗体薬の投与を行うべきである。抗EGFR抗体薬に共通した副作用として,座瘡様皮疹,掻痒,乾燥,爪囲炎,皮膚裂創などの皮膚障害があり,治療遂行には細やかな皮膚マネージメントが必要とされる。

『大腸癌治療ガイドライン』医師用2010年改訂版において,上述のエビデンスや臨床状況を勘案した全身化学療法のアルゴリズムが示されている(図3)。

図3
全身化学療法のアルゴリズム
図3 全身化学療法のアルゴリズム

わが国初のエビデンス;IRIS 療法

 上述してきたように,わが国の『大腸癌治療ガイドライン』で掲載されている全身化学療法のアルゴリズムは,いずれも欧米の臨床試験結果から得られたエビデンスがもとになっている。そんななかでわが国において,進行・再発大腸癌に対する二次治療として,FOLFIRI療法とCPT-11+TS-1併用療法(IRIS療法)のランダム化第II/III相比較試験(FIRIS試験)が行われた。本試験は,進行再発大腸癌に対する日本で初めての大規模比較試験である。5-FU 系薬剤またはL-OHP との併用療法の一次治療に不応・不耐となった進行・再発大腸癌患者を対象に,主要評価項目をPFS とし,標準治療であるFOLFIRI 療法に対するIRIS療法の非劣性を検証するデザインである。426 例が登録され,PFS中央値はFOLFIRI 群(213例)5.1カ月,IRIS 群(213 例)5.8 カ月であり,非劣性が証明(ハザード比1.077,95% CI 0.879-1.319,p=0.039)された(図45)。OS においても両群の成績はほぼ同様の結果であった(図5)が,サブセット解析の結果,とくにL-OHPの前治療がある対象においてIRIS療法の良好な成績が認められた(図6)。有害事象として,FOLFIRI 療法で好中球減少の頻度・程度が有意に高い一方,IRIS療法では下痢,疲労,食欲不振などの非血液毒性の頻度が有意に高いので,有害事象のプロファイルの違いに留意する必要がある。以上から,IRIS療法は,進行・再発大腸癌に対する二次治療として,新たな治療選択肢となり得ることが示された。経口剤の利点と注意点を十分理解したうえで実地臨床に応用していくことが望まれる。このことは『大腸癌治療ガイドライン』を作成している大腸癌研究会のweb版でもその情報が掲載され,2013年発刊予定の『大腸癌治療ガイドライン』のアルゴリズム内に追記されることが予想されている。今後,本療法と分子標的治療薬の併用のエビデンス確立が求められる。

図4
FIRIS 試験のPFS(ITT population)
図4 FIRIS 試験のPFS(ITT population)
図5
FIRIS 試験のOS(ITT population)
図5 FIRIS 試験のOS(ITT population)
図6
FIRIS試験のsubset analysis
図6 FIRIS試験のsubset analysis
●文献
1) Simnonds PC : Palliative chemotherapy for advanced colorectal cancer : Systematic review and meta-analysis : Colorectal Cancer Collaborative Group. BMJ 321 : 531〜5, 2000.
2) Shimada Y, et al : Phase II study of CPT-11, a new camptothecin derivative, in metastatic colorectal cancer : CPT-11 Gastrointestinal Cancer Study Group. J Clin Oncol 11 : 909〜13, 1993.
3) De Gramont A, et al : Leucovorin and fluorouracil with or without oxaliplatin as firstline treatment in advanced colorectal cancer. J Clin Oncol 18 : 2938〜47, 2000.
4) Goldberg RM, et al : A randomized controlled trial of fluorouracil plus leucovorin,irinotecan, and oxaliplatin combinations in patients with previously untreated metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol 22 : 23〜30, 2004.
5) Muro K, et al : Irinotecan plus S-1 (IRIS) versus fluorouracil and folinic acid plus irinotecan (FOLFIRI) as second-line chemotherapy for metastatic colorectal cancer : A randomized phase 2/3 non-inferiority study (FIRIS study). Lancet Oncol 11 : 853〜60, 2010.
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