外来化学療法のクリニカルパス
(1)肺癌

鳥取大学医学部附属病院腫瘍・
呼吸器内科
重岡 靖/Yasushi Sigeoka
(現 がんセンター 副センター長)
清水 英治/Eiji Shimizu
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はじめに

 クリニカルパスは医療の様々な分野で利用されているが,悪性腫瘍の化学療法に関するものは,以前は少なかった1)。実際にパス関連の成書をみても,範例として提示されているものは手術や検査に関係するものが多い。呼吸器内科領域では,睡眠時無呼吸症候群に対する在宅CPAP導入目的での2泊3日のパスをみて使い勝手がよいと感じたことがあるが,パスに初めて取り組む場合には,このような短期間で検査・治療が終了するケースを題材としたものが扱いやすく,逆に肺癌の化学療法は1コース単位でも最低3週間ほどかかり,運用するのに根気がいる大がかりなパスになりそうな印象がある。ただ最近では,学会のセミナーなどでも肺癌化学療法のパスについての講演が行われたり,専門誌にも取り組みが紹介されたりしており2),今後徐々に普及していく可能性はあると思われる。

 今回は肺癌領域でどのようなパスを作成・活用していくべきか記述するが,医療者用パスについては当科ではまだ使用経験がないこともあり,パスに熟知した方からみると不足な点が多いと思うがご了承いただきたい。

肺癌外来化学療法におけるクリニカルパスの役割

 肺癌化学療法は,従来シスプラチンを含むものが中心であり,,こうした治療は入院した上でないと実施困難であった。しかし近年,多くの有効性の高い非プラチナ系抗癌剤が開発され,外来化学療法の件数も増加している。当院でも電子カルテの導入後まもない,今年4月より全10床の外来化学療法室がオープンしており(図1),今まで以上に外来での抗癌剤治療が行いやすい状況となっている。外来化学療法は入院での治療と比較して,医療者から離れて社会生活を行う時間が多くなる。これによりQOLが向上する反面,安全面の低下を引き起こす可能性がある。したがってパスを導入する重要な目的の一つは,患者の治療に対する理解度の向上となる。消化器癌や胃癌を対象として,治療に対する患者の理解度および予定された治療をどれだけ受けられるか(コンプライアンス)について,パス導入前の外来化学療法施行例10例とパス導入後の12例を比較検討したアンケート調査では,パス導入により治療に対する患者の理解度が改善し,また両群間の比較によりパス導入群において化学療法に対するコンプライアンスが有意に高かったと報告され,外来化学療法パスの有用性を示唆している3)

図1

患者用パスと医療者用パス

 クリニカルパスは患者用と医療者用に分かれるが,実際に運用が難しいのは医療者用パスである。とくに電子カルテ導入以前では,自ら作成するのに手間を要した(医療マネジメント学会や日本クリニカルパス学会でパスがダウンロード可能なので,電子カルテがない施設では利用されることをお勧めしたい)。また運用においてはアウトカム評価やバリアンス分析が重要とされるが,シスプラチンを軸とした入院中の化学療法ではバリアンスの多発,また治療期間が長いことなどにより,紙パスでは厚みも膨大となり運用はかなり労力を要すると推測される(初心者向けに念のため記すが,アウトカムとはパスに基づくステップごとの達成目標や,コスト,患者・職員満足度などをさす。またバリアンスとはパス上で予定していた事項からの変動・逸脱とされる)。

 ただし当院では化学療法の1コース目は,必ず入院で施行する規定になっていることもあり,外来に移行した時点では副作用面で無理のないレベルで行うこととなり,バリアンスの多発という問題は外来化学療法では自然と解消するはずである。また外来受診日は毎週曜日が決まっており,これもパスを作成・運用する際に利便性の面で有利に働く。悪性腫瘍に対する化学療法のパスを運用する際に,労力に見合うだけのメリットがあるかどうか賛否両論あると思うが,以上のことから外来化学療法に適応するのであれば手間は少なくてすみそうである。

肺癌に対する外来化学療法が実施可能なレジメン

 当科で従来施行してきた肺癌化学療法の主なレジメンは,非小細胞肺癌におけるパクリタキセルの週1回投与,ビノレルビンやゲムシタビンの単剤投与などが中心で, 内服薬も加えるとゲフィチニブ,術後補助療法でのユーエフティなどがあげられる。 カルボプラチンとパクリタキセル,カルボプラチンとゲムシタビンの併用療法なども血液毒性が軽ければ施行可能である(好中球減少がGrade 3止まりですみそうな場合や,血小板輸血を考慮する必要がない場合)。また小細胞肺癌ではシスプラチンを含む治療は入院で行うが,カルボプラチンとエトポシドによる併用療法や,イリノテカン単剤投与は外来で施行しているケースが多い。したがって現時点では,以上のようなレジメンに対して外来化学療法パスを作成することになる。

クリニカルパスの実際

A.患者用パス

 化学療法開始前に当科で患者に配布している資料は,「化学療法を受けられる方へ」というパンフレット(図2)と患者用パス(図3)の2つである。前者はできるだけ簡単な言葉を用いて文字も大きく読みやすくし,化学療法の流れ,副作用およびその対策,緊急時の連絡先などを記載している。患者用パスについても,やはり理解しやすいものを作成することが前提で,横軸を時系列,縦軸を治療,検査,処方,食事・生活,説明・指導などとして1枚の紙に収まるようにしている。また患者に興味をもってもらうためには, 美しいものを作成することも大切であろう。患者用パスはExcelを用いて作成しており,紙パスでも十分だと考えている。これらの資料を用いての説明は主に看護師が行うが,医師も状況に応じて利用している。

図2
患者用パンフレット
図3
患者用パス

B.医療者用パス

 医療者用パスは,後々のデータ解析などのことも考えると,やはり電子カルテ上で運用するのが便利である。電子カルテ上で作成可能な医療者用パスのインターフェイスは,いたってシンプルである(図4)。外来パス作成にあたって必要な入力事項(パス属性)は,パス名,パス説明,診療科,診療日の周期,診療日数,代表者名であり,その後はコンピューターの画面上で予定の検査・治療などの内容を登録していく。例えば「血液検査」の部分をクリックすると電子カルテと連動して,予定した採血項目が表示され,それを変更することも可能である。入院中であれば医療者用パスのチェックは毎日行うが,外来化学療法の場合は,バリアンスなどについても外来診察日にチェックしていくことになる。 このように,ほとんどの項目がパスの画面と連動して入力・確認可能であるが,抗癌剤の注射オーダーについては,安全性の問題から入力・確認をパス画面からは行えない。 したがって従来どおり電子カルテの注射の部分から行うことになる。

 こうした医療者用パスは,各診療科が電子カルテ上で独自に作成・登録・使用しているが,バリアンスだけは院内全体で一括して登録を行い使用している。バリアンスの拾い上げや分析については,バリアンスコードを作成しシンプルに進めるのがよいようであるが,当科では経験が少ないため,バリアンス分析の例を提示するにとどめる4)表1)。コンピューター上で行う操作は,バリアンスの有無のチェックとコード入力で,分析は症例集積後にまとめて行い,パス改訂に生かすことになる。

図4
医療者用パス
表1
バリアンス分析の実際

おわりに

 外来化学療法パスを作成した場合,患者用パスが外来化学療法の理解に役立つのは間違いないと思われる。実力が試されるのは医療者用パスで,使ったほうが便利と思えるツールにできるかが最初の関門であろう。対策としては当面はシンプルなものを作成し,慣れるに従って徐々にチェック項目を増やしていくこと,医師以外の職種の方の意見も十分取り入れることを考えている。化学療法に関するパスは,専門的知識もかなり要するため最初は医師が作成することになると思うが,最終的に医師以外の医療関係者にも利用価値が高いものにできるかも今後の課題である。

 
●文献
1) 武藤正樹:日本におけるクリティカルパスの現状と課題.医療マネジメント会誌 1:88,2000.
2) 磯部宏:肺癌化学療法とクリティカルパス.呼吸器科 3:281〜7,2003.
3) 小森淳二,他:外来化学療法におけるクリニカルパスの検討.日クリニカルパス会誌 5:511〜5,2004.
4) 廣田和彦:バリアンスの定義と分類および分析の実際.クリニカルパス運用事例集,済生会熊本病院クリニカルパス推進プロジェクト編著,第1版,日総研出版,名古屋,2001,p35〜41.
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巻頭言 . 「外来化学療法とチーム医療」
外来化学療法の現状
外来化学療法における看護師の役割
外来癌化学療法における専任薬剤師の役割
外来化学療法のクリニカルパス (1)肺癌
外来化学療法のクリニカルパス (2)乳癌
外来化学療法のクリニカルパス (3)悪性リンパ腫
外来化学療法のクリニカルパス (4)消化器癌
外来化学療法における副作用対策