外来化学療法のクリニカルパス
(4)消化器癌

独立行政法人国立病院機構四国がんセンター看護部1)/ 同センター内科2)
森田 純子/Junko Morita1)
森 ひろみ/Hiromi Mori1)
兵頭 一之介/Ichinosuke Hyodo2)
(現 筑波大学附属病院 消化器内科)
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はじめに

 当院では患者への情報提供およびリスクマネジメントを目的として,クリニカルパス(以下,パスと略す)を積極的に導入し使用している。ほとんどの癌種の定型的手術は,パスに則り実施されている。内科領域では内視鏡的粘膜切除術,化学療法の順に作成した。化学療法は標準的と考えられている治療法から作成を進めているが,その過程は必ずしも順調ではない。当センタ−では新規抗癌剤の開発治験や次々に検討すべき新たな併用療法の臨床試験のため,レジメンを特定できないことが大きな原因である。またアウトカムやバリアンスの設定の困難さも誘因と思われる。

 本稿では,消化器癌化学療法で作成されている胃癌の5-FU+メトトレキサ−ト(MF)療法パスの外来での活用を考えていきたい。

入院のMF療法パスの実際

 治療方法が決定され,患者家族への説明と同意が得られた後,看護師はさらに具体的な理解を得るため患者用パスを用いて説明する。その際には,患者の家族にも配慮しながら行う。化学療法のパスが登場するのはこの時点であるが,治療開始までに患者理解の助けとなる「癌化学療法一般の手引き(パンフレット)」も用意している。

 すべてのパスは診療用と患者用を作成している。MF療法パス診療用は,入院(または診断確定後診療方針決定時)〜化学療法前日の1ページから始まる。1日1枚の日めくり形式で,1日の計画書兼医療者共同記録用紙として用いている。アウトカムも毎日設定している。患者用パスは1週間の予定を1枚の用紙にまとめ,患者への説明や情報提供として利用している。パスに表記したプロセスはあくまで標準であり,計画どおりに進行しない場合があること,個人差があって当然であることを必ず説明している。

 入院から化学療法前日までは,1枚の用紙で患者の情報が網羅できるようになっている。化学療法当日は医師が薬剤の投与量をパスに記入し,看護師が注射伝票と内容が一致しているか確認する。投薬・治療に関する医療ミスは重大である。とくに抗癌剤の薬剤名と量,投与日の間違い,指示の読み間違い,確認漏れによって事故が生じやすい4)。記載や読み間違いがないように,抗癌剤の薬剤名はあらかじめ医療用パスに印刷(プリントアウト)している。頻度の高い予測される有害事象の対策については,あらかじめ処置,処方薬を指示している(図1)。治療2日目〜7日目はロイコボリンの確実な内服と有害事象のモニタリング,他覚症状の観察が中心となる。患者が有害事象出現時期や対処方法を知ることをアウトカムとして設定している。

 患者用パスは医療者用を簡略化し,わかりやすい言葉で説明を入れ,イラストを多く使用することでイメージできるように工夫している。指導を要する腎機能障害予防の水分摂取,感染予防対策内容についても患者用パスに設定している。有害事象の出現時には医師または看護師に知らせるようにイラストで説明し,ロイコボリンの内服(または注射)の時間は,患者用パスにて患者と看護師が確認できるようになっている。

 入院ではチーム医療の実現をめざし,医師・看護師共同記録用紙としている。誰が担当したのか責任を明確にする必要があるため指示出し,指示受け,実施者サイン欄を設ける工夫もしている。さらに薬剤師から内服の理由,方法について服薬指導が行われ,管理栄養士から食べやすい物への変更や栄養指導が行われ,適宜相談ができるシステムとなっている。

 今後はパスが有効に機能し,多職種間の協働が円滑になることが期待される。

図1

外来でのMF療法パスの活用

 外来化学療法は変化のときを迎え,入院患者の外来化が進み外来機能の拡充が行われている。在院日数短縮をはじめ,外来化学療法加算などは通院治療の方向性にますます拍車がかかるように思われる。入院治療では確実で安全な投薬治療のほか,患者教育と有害事象のモニタリングが中心となる。MF療法のパスはアウトカム,項目,内容設定も入院が前提であり,外来で同じパスを使用することは難しい。

 今回患者とのコミュニケーション手段と安全な化学療法の施行を目的に,MF療法の入院用パスに追加,修正を加えて看護師の記録,外来用パスを作成した(図2)。現在通院治療で行っている医療ケアを化学療法治療当日と次回の治療日までの1週間を1単位として1枚の用紙とした。アウトカムは予定日に治療ができることと設定した。主な項目は治療・内服,説明,観察,その他とし,時間の記入とサイン以外はできるだけチェック(v)ですませるようにした。外来初回時には緊急時の連絡方法を確認する項目を追加した。現在使用しているパスはみやすく,簡潔であり,指示書としても使用が可能である。使用した看護師はパスをみながら治療日までの情報収集を行うことができ,患者とのコミュニケーションがとりやすくなったと感じている。患者家族は最新の情報収集に積極的である。緊張感の中で行われる入院時の治療時にはなかった疑問,とくに食事などの日常生活に関しての質問が意外に多い。また,治療の効果,効果がみられなかった場合に次に使用する抗癌剤,その副作用,患者だけでなく家族からの質問もある。

 外来で化学療法を受ける患者は副作用にはどのようなものがあり,マネジメントするには何を知っておく必要があるのか。セルフケアには何が必要なのか。具体的な患者教育が重要である。ここにパスの大きな意義がある。MF療法では大切な患者指導の一つにロイコボリン内服の自己管理がある。最近数件のトラブルがあった。「予定の時間に内服を忘れてしまった」「何時から内服を開始したらいいのかわからなくなった」や「調剤薬局で指導された薬の量が今までと違う」などである。その対策として薬剤師が薬の写真と内服時間を記入できるチェックシートを作成し,飲み忘れた際の対処方法も記載した。薬剤師からの情報提供が自己管理を助けるものとなっている。

 外来化学療法でもっとも優先されるべきことは,安全に治療が遂行されることである。治療後は有害事象のモニタリングが十分にできない,他覚症状の観察が不可能であり患者のセルフケアと自己管理に頼るところが大きい。作成したパスは,患者とのコミュニケーション手段として有効で,在宅期間中の有害事象や自己管理の状態を把握する上でも役立った。パスを使用することで,MF療法の流れ,チェックポイント,考え方,判断基準がスタッフにわかるメリットもあった4)。そこから得られた情報を有効に使うには,病院外来の変化,患者のニードの多様性を考え,多職種の協力とパス導入の目的の明確化が必要だと考える。

図2

おわりに

 通院治療におけるパスの導入には,まだまだ阻害因子が多い。しかしパスは,@インフォームド・コンセント,Aチーム医療の達成・コンセンサス,Bケアの標準化・教育ツール,C患者教育,Dケアの質の指標,EEBMのデータ6)であることを考えると,外来においても医療サービスに寄与できるものと期待できる。そのためには阻害因子の改善,スタッフへの教育を始めなくてはならないだろう。

 
●文献
1) 針原康,他:リスク管理とクリニカルパス.癌と化学療法28:324〜9,2001.
2) 佐伯俊昭,他:外来化学療法と治験における医師・薬剤師・看護師の連携.薬局 55:90〜6,2004.
3) 菅野かおり,他:悪性リンパ腫「R - C H O Pクリニカルパス(KMS-1)」の活用法と看護ケアのポイント.がん看護 8:325〜30,2003.
4) 足利幸乃:がん化学療法領域におけるクリニカルパスの作成と導入.がん看護 8:331〜5,2003.
5) 岩崎榮,他:エビデンスに基づくクリニカルパス,高瀬浩造,他編,医学書院,東京,2000,p1〜12.
6) 松島照彦:クリティカルパス実践セミナーテキスト,医療マネジメント学会編,じほう,東京,2003,p1〜17.
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巻頭言. 「外来化学療法とチーム医療」
外来化学療法の現状
外来化学療法における看護師の役割
外来癌化学療法における専任薬剤師の役割
外来化学療法のクリニカルパス (1)肺癌
外来化学療法のクリニカルパス (2)乳癌
外来化学療法のクリニカルパス (3)悪性リンパ腫
外来化学療法のクリニカルパス (4)消化器癌
外来化学療法における副作用対策