外来化学療法の動向

1)日本医科大学付属病院呼吸器内科,
2)
同化学療法科,3)同薬剤部
北村 和広1)/Kazuhiro Kitamura
岸田 悦子2)3)/Etsuko Kishida
久保田 馨1)2)/Kaoru Kubota
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はじめに

 外来化学療法は現在では多くの施設で行われるようになった。かつてわが国では入院での抗癌剤治療がほとんどであり,海外の状況とは大きく異なっていた。しかし,平成14年度の診療報酬改定での外来化学療法加算新設以降,わが国でも多くの施設に外来化学療法が導入され,現在では癌化学療法の主体となっている。

 厚生労働省の集計では平成20年度の外来化学療法加算1の算定は1,146施設,95,801回,外来化学療法加算2の算定は899施設,18,319回であった(図1)。多くの施設で専用の外来化学療法室を備え,定められたスタッフを配置して外来化学療法を行っていることがわかる1)

 当院においては平成16(2004)年5月に外来化学療法室が設置され,平成22(2010)年4 月には13床から26床に増床された(図2)。平成24(2012)年5月時点で,1日平均28名の多彩な疾患の患者に対し,化学療法を行っている。平成23年度の外来治療の総件数は6,318件であり,月別にみても増加の一途を辿っている。平成24年5月には月あたり600件を超えた(図3,4,5)。現在では抗癌剤のみではなく,リウマチ,乾癬,ベーチェットなどの非悪性慢性疾患の新規薬剤やゾレドロン酸,リュープロレリン,ゴセレリン酢酸塩などのホルモン注射が外来化学療法加算の適応となっており,多彩な診療科で外来化学療法室が利用されている。

図1
外来化学療法加算
図2
日本医科大学付属病院外来化学療法室・リクライニングチェア
図3
外来化学療法室実施状況推移
図4
外来化学療法室月間治療診療科別実施状況
図5
疾患実施延べ件数(2012年5 月:674件)

外来化学療法の普及の理由

 このように化学療法が広く外来で行われるようになった背景には,主に3つの理由があると思われる。1つは支持療法を含む癌治療の進歩,次に癌に対する医療者・患者の意識の変革,最後に医療に対する社会環境の変化である。

A. 癌治療の進歩

 近年,抗癌剤治療の進歩はめざましい。それぞれの疾患に有効な抗癌剤,さらにはさまざまな分子標的薬が開発され,生存期間が以前より延長している。生存期間の延長は,同時に治療を受ける機会や期間の増加/ 延長を意味しており,そのすべてを入院で行うことは医療施設の施設的問題からみても不可能である。

 もっとも外来化学療法の増加に寄与していると考えられるのは支持療法の進歩であろう。とくに悪心・嘔吐対策やシスプラチン投与時のショートハイドレーションなどが大きいと思われる。

 悪心・嘔吐に対してはASCO,NCCN,ESMO/MASCC( 国際癌サポーティブケア学会),日本癌治療学会などが制吐剤ガイドラインを策定している。細かな違いはあるものの,各ガイドラインに共通していることは,シスプラチンを含む高度催吐性抗癌剤(HEC)にはアプレピタント・5-HT3 受容体拮抗剤・デキサメタゾンの3剤の組み合わせ,中等度催吐性抗癌剤(MEC)には,5-HT3受容体拮抗剤・デキサメタゾンの2剤の推奨である。ASCO,NCCN,ESMO/MASCCガイドラインは5-HT3受容体拮抗剤としてパロノセトロンをMECあるいはHECに対して推奨している。このアプレピタント・パロノセトロン・デキサメタゾンの3剤の組み合わせによって,シスプラチンであっても,外来治療が十分に可能となった。

 近年,前述の新規制吐剤によって,遅発性悪心・嘔吐が有意に軽減し,経口摂取が十分に可能になったこと,さらにマグネシウム,マンニトール前投与による腎臓保護効果が示され2),ショートハイドレーションが確立したことで,シスプラチンも外来投与が可能となった(図6)。このことは,多くの施設でシスプラチンの外来化学療法への移行に拍車をかけている。

 骨髄抑制の管理において,低リスクの患者では発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)を発症しても経口による抗菌薬で十分管理可能であり,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は基本的に用いる必要性はない。したがって,外来で十分管理可能であり,抗癌剤治療を外来で施行する妨げにはならない。詳細は本特集他稿を参照していただきたい。

図6
当院における非小細胞肺癌に対するシスプラチン(Day 8)の
投与例(例:シスプラチン+TS-1® q4〜5week)

B. 医療者・患者の意識の変革

 癌の治療は,以前は治療効果として奏効率を重視していた。しかしStage IIIB,IV期の進行癌に対する第III相試験において奏効率は生存期間およびQOL の改善に必ずしも相関しないことが示され,現在は臨床試験の評価としては生存期間の延長を第一としている。また,近年,生存期間の延長に加えてQOL の評価も重視するようになってきた。

 患者側も以前のように入院治療がもっとも高品質であり,安全であるという認識はしだいにうすれ,日常生活を送りながら治療を受けることがより自らのQOL を向上させる可能性が高いことを理解するようになった。厚生労働省の一般国民を対象とした調査では根治の見込みがない癌になった場合,約6 割の人が自宅療養を希望することが報告されている3)。外来化学療法はこのようなニーズに応える手段の1つである。

 C. 社会環境の変化

 医療をとりまく社会環境はかなり変化した。平均入院期間の短縮を図るため入院治療費の包括化が行われ,多くの施設が対象となっている。一方で外来治療は包括化されず,薬剤費・手技費などを請求できる。加えて条件を満たす外来化学療法室を開設,運用すれば前述のとおり外来化学療法加算を請求できるようになった。経営的観点からも化学療法の外来での施行が推奨されている。

外来化学療法の今後

 今後はさらに新しい薬剤,レジメンが登場し,外来化学療法として施行されていくことになろう。それらに対する新しいリスクマネジメントが必要不可欠である。また,それぞれの疾患,病状,患者の状態に応じて化学療法をいかに適切に選択するかが重要になる。治療の目的を明確にし,それを医療従事者と患者・家族が共有するといった意思決定の基本を再認識することが必要である。目的が明確であれば,どの程度の副作用,コストが耐えられる範囲となるかを話し合うことが可能になる。とくにQOL の適切な評価が重要であろう。

 QOL には化学療法の副作用により影響されるものと,癌に伴う症状により影響されるものがある。前者に対しては悪心・嘔吐などの副作用対策,すなわち予防処置および患者教育が重要である。後者には化学療法自体の有効性が影響する。治療が有効でなければ症状のコントロール,生存期間の延長が期待できずQOL の向上に寄与しない4)

 外来化学療法においては,臨床試験のみならず,実地臨床でもQOL の評価が必要になると考えられる。

おわりに

 外来化学療法の現況について述べた。「生もの禁止」などの恣意的な指導で患者の生活に悪影響が出ないよう勉強することが必要である。近年,抗癌剤治療の進歩は著しい。とくに分子標的薬が次々と登場し外来で使用されており,今後の増加も予想される。分子標的薬の有害事象は多彩で,発現時期を予測し得ないものもある。外来化学療法施行においては,日常診療での注意深い患者観察,患者との連絡体制の確保,そして緊急時には専門医との協力体制の確立など,病院組織全体でのマネジメントが必要であろう。

●文献
1) 厚生労働省.外来化学療法の普及.2009.
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/dl/s1216-9g02.pdf
2) Bodnar L, et al : Renal protection with magnesium sulphate in patients with epithelial ovarian cancer after cisplatin and paclitaxel chemotherapy : A randomized phase II study. Eur J Cancer 44 : 2608〜14, 2008.
3) 厚生労働省.終末期医療に関する調査等検討会報告書.2004.
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/07/s0723-8d8.html
4) 中川和彦,他:肺癌に対する外来化学療法の日本と米国における現状比較;QOL 評価とシスプラチンベースレジメンの導入について.外来癌化学療法 2:62〜8,2011.
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巻頭言「外来癌化学療法の目指すもの」
外来化学療法の動向
外来化学療法;適応とインフォームド・コンセント
外来化学療法担当医師に求められるもの
外来化学療法担当看護師・担当薬剤師に求められるもの
外来化学療法実施当日の重篤な合併症と対策(1)過敏反応・アナフィラキシー
外来化学療法実施当日の重篤な合併症と対策(2)薬剤の血管外漏出
次回治療までの注意事項・観察項目
外来化学療法における副作用対策(1)消化器症状
外来化学療法における副作用対策(2)骨髄抑制
外来化学療法における副作用対策(3)肝障害・腎障害
外来化学療法における副作用対策(4)肺障害
外来化学療法における副作用対策(5)皮膚・粘膜障害