肺癌治療に関する情報誌:Lung Cancer Cutting Edge(LCCE)
2015年09月号vol.63
LCCE 特集:座談会

免疫療法導入後の進行非小細胞肺癌に対する標準治療の再構築

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岡本:2015年のアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)では免疫チェックポイント阻害剤*1の2つの第III相試験がポジティブであったことが報告されました。本日は、それに伴ってファーストラインやサードライン以降の治療が今後どのように変わるか、またセカンドラインの臨床試験のデザインをどのように考えるかについてご意見をいただければと思います。

扁平上皮癌に対する効果

岡本:まず初めに扁平上皮肺癌を対象とした抗PD-1抗体ニボルマブとドセタキセルとの比較試験の結果について議論したいと思います。試験結果について解説していただけますか。

三浦:ニボルマブ対ドセタキセルを比較したCheckMate-017試験では、生存期間においてハザード比0.59でニボルマブの優位性が示された非常にインパクトがある結果でした1)。さらにKaplan-Meier曲線がある時点からPlateauになっており、長期にわたる効果が期待できそうな部分も興味があります。

細見:全生存期間(OS)に明らかな差(9.2 vs. 6.0ヵ月)がみられましたので、扁平上皮癌では、セカンドラインはニボルマブを用いるようになるのではないかと思っています。

岡本:無増悪生存期間(PFS)はOSとは異なり、最初は両群とも低下し、3ヵ月以降からニボルマブ群が上回るというパターンでした。病勢進行(PD)率は有意ではないもののニボルマブの方が高い傾向がみられました。このようなデータは実臨床でどのように反映されるでしょうか。

三浦:非常に進行が速い扁平上皮癌の患者さんを時に経験します。そのような場合には、PDのリスクを考慮してニボルマブではなくてドセタキセルを選択するということがあってもいいかもしれません。

細見:ニボルマブの効果発現が緩やかな症例があるといわれていますが、どの時点で効果があるもしくはないと判断するのかが非常に難しいと思います。CheckMate-017試験では最初の9週間は様子を見ることになっていますが、例えば2~3週で腫瘍サイズが大きくなった場合、どのように判断するかは非常に難しいと思います。

岡本:岡本勇先生従来の抗癌剤であればPDになれば次の薬剤に替えますが、免疫療法においては、一過性の偽性増悪も考えられますね。毒性の面では、ニボルマブはドセタキセルと比べて軽度という結果でしたが、副作用にはどのような特徴がありますか。

加藤:ニボルマブで認められた副作用は免疫介在性の肺臓炎、大腸炎、肝炎、腎炎、甲状腺機能低下症などでした。重篤な副作用の発現割合は少ないですが、まれとはいえこれまで遭遇したことのないタイプの副作用であり、対処は容易ではありません。

三浦:ドセタキセルの副作用のほとんどは血液毒性ですが、ニボルマブは非血液毒性が主となります。免疫に基づく副作用をコントロールするためにステロイドやインフリキシマブを使用しなければいけないケースもあるようですので、一概に副作用が軽いと考えて安易に使用することは避けなければいけません。

加藤:肺癌の試験では偽性増悪現象はほとんどありません。効果予測マーカーがない現状では、画像上の増悪がみられたらすぐに投与中止するという姿勢で望む事が必要と思います。

非扁平上皮癌に対する効果

岡本:CheckMate-057試験は非扁平上皮癌を対象としたドセタキセルとニボルマブの大規模な比較第III相試験で、全体としては生存期間でニボルマブがドセタキセルを上回りました2)。しかしながら、その生存曲線は前半にニボルマブが下回り、途中でクロスするという結果でした。また、明らかにPD-L1発現率によってニボルマブの効果が違う一方、PD-L1発現率が低い症例でも生存期間はドセタキセルとほぼ同等という非常に複雑な結果が議論を呼びそうです。

三浦:非扁平上皮癌の患者さんはDriver変異を有する症例を含むという意味でヘテロな集団です。個人的には抗PD-1抗体の効果予測にはmutation burden*2が重要と考えており、一つの遺伝子変異に増殖、生存が依存しているようなDriver変異を有する症例では効果が低いかもしれません。

細見:細見幸生先生私は、バイオマーカーとしてPD-L1は十分ではありませんが、PD-L1陰性の患者さんにはセカンドラインではニボルマブを使用する必要がないと思っています。生存曲線がクロスしたのは、ニボルマブが全く奏効せずドセタキセルによる治療の方が期待できる集団が多く存在するためだと思います。実臨床で、そういう患者さんにニボルマブを長期に使用しドセタキセルによる治療機会を逃してしまうことを危惧しています。

三浦:私も遅れて奏効することを期待して無理に治療を続けるリスクを危惧しています。この薬剤は目に見える奏効が得られなくても将来的に生存期間に寄与する可能性があり、それが生存期間のクロスにつながっていると思います。奏効がみられない場合には引っ張りすぎずに、次に控える有効な薬剤を投与するタイミングを絶対に逃さないことが重要と考えます。

効果予測因子についてのミューテーションバーデン

岡本:ニボルマブの効果予測因子のバイオマーカーをどのように考えていくかは、今後の焦点と考えます。この点、いかがでしょうか?

加藤:非扁平上皮癌の今回のデータは、上皮成長因子受容体(EGFR)陽性患者が少ない国での試験です。もし、mutation burdenの考え方が正しく、喫煙などの環境因子を有する患者さんで抗PD-1抗体がよく効くとなれば、EGFR陽性が腺癌の半数を占める日本でも ニボルマブの有効性がそのまま再現されない可能性があり、日本でのデータ蓄積が必要と考えます。

岡本:メラノーマや腎癌は免疫療法が奏効する癌腫であることが知られていましたが、肺癌が免疫チェックポイント阻害剤で縮小したことは新たな進歩だと考えます。mutation burdenの仮説に基づいて体細胞突然変異と免疫原性が相関しているのであれば、非小細胞肺癌はそもそも免疫療法のターゲットとなるべき疾患でしたね。

加藤:いずれバイオマーカーが見つかれば、肺癌の一部の患者さんは高い免疫原性を有することが判明し、免疫チェックポイント療法の恩恵を大きく受けるようになると思います。

三浦:三浦理先生ある論文ではmutation burdenが高い群では、肺癌であってもDNA修復に関わる遺伝子変異を伴っている場合があると報告されていました3)

岡本:EGFR遺伝子変異陽性の患者さんには喫煙歴のない患者さんが多く、最近では喫煙歴の有無で肺癌の患者さんの体細胞突然変異の数が違うというデータも発表されています4)。我が国の非扁平上皮癌の患者さんの30~50%はEGFR遺伝子変異があることを考えれば、EGFR遺伝子変異陽性症例に対するニボルマブの効果は注視していく必要があるかもしれませんね。

加藤:抗腫瘍効果の点でEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)と同様、免疫療法薬は奏効/非奏効がはっきり分かれる傾向があります。いずれ効果予測因子を捕まえる事ができると思いますので、ニボルマブの投与前の生検検体と1~2年後の再生検検体を解析してバイオマーカーを探していく必要があると思います。

VEGF経路阻害剤の新たな可能性

岡本:ドセタキセル単剤とドセタキセル+ラムシルマブを比較した第III相試験(REVEL試験)では、PFSもOSもドセタキセル+ラムシルマブ併用療法が有意差をもって良好であるという結果でした5)。日本で行われたブリッジングスタディ(無作為化第II相試験)について細見先生が2015年のASCOで発表されましたが6)、そのデータをご紹介ください。

細見:EGFR変異陽性症例を除外した157例を対象としています。奏効割合はラムシルマブ追加群で28.9%、ドセタキセル単剤群で18.5%でした。毒性は、発熱性好中球減少症(FN)がドセタキセル単剤群で19.8%、ラムシルマブ追加群で34.2%と少し多い印象でしたが、すべてGrade3で、重篤な症例はなくコントロール可能でした。この結果から、日本人でもラムシルマブの上乗せが生存に寄与することが示されました。

加藤:FNに関して、がん診療ガイドラインでは、化学療法レジメンによる発症頻度が20%以上であれば顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の1次予防的投与の対象となり、毒性はある程度カバーできると思います。

岡本:ご指摘のごとくガイドラインに従うと、1コース目の2日目に持続型G-CSFが1次予防で投与できますが、実地臨床において1次予防投与はどれくらい普及しますでしょうか。

加藤:加藤 晃史先生実際には1コース終了後に2次予防で使うことが多くなると思います。G−CSFを用いてでも10%の奏効率の上乗せ効果を期待してラムシルマブを加える価値はあると思います。

岡本:ドセタキセル+ラムシルマブの併用療法およびニボルマブがセカンドラインにおいていずれもドセタキセルを上回ったという結果でしたが、それでは、ニボルマブとドセタキセル+ラムシルマブの使い分けに関してはどのようにお考えですか。

三浦:ニボルマブはPS良好な患者さんにおいて効果をより引き出すことができると考えていますので、優先してニボルマブを使い、奏効しなければ積極的に次のラインでドセタキセルないしはドセタキセル+ラムシルマブを使うと思います。

細見:PD-L1が測定できるのであればPD-L1陰性の症例にはドセタキセル+ラムシルマブを使うと思います。

加藤:疾患制御率はニボルマブが50%程度でドセタキセル+ラムシルマブでは80%近いことを考えると2, 5)、骨髄抑制の副作用をカバーできる程度の余力のある患者さんであれば先にドセタキセル+ラムシルマブを使うと思います。

既治療進行非小細胞肺癌を対象とした臨床試験のデザインに与える影響

岡本:ニボルマブやラムシルマブの登場は現在進行している既治療進行非小細胞肺癌を対象とした臨床試験のデザインにも影響を及ぼすと考えられます。本日お集まりの先生方にご協力頂き、インターグループスタディとしてすでに登録を開始しております既治療進行非小細胞肺癌を対象としたドセタキセルとnab-パクリタキセルの比較第III相試験(図1)もプロトコール改訂の検討が必要だと考えています。本試験の適格基準にニボルマブをどのように組み込んでいくかに関してまして、先生方のご意見を伺えますか。

三浦:私はニボルマブがOSに寄与すると考えていますので、ニボルマブの投与が不可能な症例を除いて全例ニボルマブ投与終了後の登録が前提だと思います。

細見:特に扁平上皮癌においては、ニボルマブが投与できる患者さんを治療したうえで登録すべきだと思っています。

加藤:私はお二人とは異なり、ニボルマブが奏効する20%の患者さんを事前に特定できないので、ニボルマブ投与を必須とはせずに、投与の有無を割り付け調整因子に入れるのがよいと思います。

三浦:扁平上皮癌については異論がないと思いますが、非扁平上皮癌については今日の議論にもありましたように意見の分かれるところだと思います。

岡本:ラムシルマブもドセタキセルとの併用で、非小細胞肺癌への適応拡大が期待されています。インターグループスタディの標準治療群は現在ドセタキセル単剤ですが、この点の改訂に関していかがでしょうか?ラムシルマブは血管新生阻害剤ですので、全症例への投与が行われることは考えにくいですので、私としてはドセタキセル群にはinvestigator’s choiceでラムシルマブ併用を可能とする方向性を考えております。今回の試験はnab-パクリタキセルのドセタキセルに対する生存期間における非劣性を確認する試験ですので、ラムシルマブを上乗せしたドセタキセルに対する非劣性が証明されれば、nab-パクリタキセルの非劣性は確固たるものになると感じています。少し複雑なデザインになりますが、皆様のご意見を下さい。

三浦:全例ドセタキセル+ラムシルマブは、なかなか難しい可能性がありますね。やるとすれば、investigator’s choiceでよいと思います。ただ、このようなセッティングが統計学的にどのような意味を持つかを確認したいです。

細見:私もinvestigator’s choiceで、ラムシルマブを許容するという形が最良だと思います。

加藤:ドセタキセル+ラムシルマブがコミュニティースタンダードになるか迷います。その点からもinvestigator’s choiceが良いと思います。

三浦:今回の試験は発熱性好中球減少症がキーになっていますので、ドセタキセル+ラムシルマブにおける発熱性好中球減少症についても関心があります。

岡本:ありがとうございました。本試験のプロトコール改訂につきましては、改めて運営委員会で正式に議論したいと思います。さて、これらを踏まえて、今後はどのような展開が期待できるでしょうか。

三浦:ニボルマブに関しては、我々が経験したことのない有害事象の発現にチーム医療で対応することを検討したいと考えています。

加藤:メラノーマでは抗ヒト細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)モノクローナル抗体との併用でニボルマブの効果が強化されたという発表がありました7)。抗PD-1抗体が効きにくいと考えられるPD-L1陰性の肺癌患者さんにも抗CTLA-4抗体との併用は有望だと思っていますので、今後の試験が待たれます。

細見:ニボルマブやラムシルマブなどの新しく有効な薬剤が使える様になることは、肺癌患者さんにとって様々な選択肢が可能になり、臨床上の大きな進歩と考えます。

岡本:本日はASCOでの発表などを踏まえて、ニボルマブやラムシルマブがセカンドラインの新しい標準治療となる可能性を含めた標準治療の再構築について先生方に議論いただきました。どうもありがとうございました。

*1免疫チェックポイント阻害剤
PD-L1とPD-1の結合を阻害する抗体など。

*2Mutation burden
ディープシークエンスなどで体細胞突然変異の頻度や数が多い癌腫、症例において免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いことから、免疫原性を規定する因子の一つとして体細胞突然変異の頻度や数が重要であるとする仮説3)

  1. Brahmer J, et al. Nivolumab versus docetaxel in advanced squamous-cell non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2015;373:123-35.
  2. Paz-Ares L, et al. Phase III, randomized trial (CheckMate 057) of nivolumab (NIVO) versus docetaxel (DOC) in advanced non-squamous cell (non-SQ) non-small cell lung cancer (NSCLC). J Clin Oncol 2015;33: LBA109 (Meeting Abstracts).
  3. Rizvi NA, et al. Cancer immunology. Mutational landscape determines sensitivity to PD-1 blockade in non-small cell lung cancer. Science 2015;348:124-8.
  4. Gibbons DL, et al. Smoking, p53 mutation, and lung cancer. Mol Cancer Res 2014;12:3-13.
  5. Garon EB, et al. Ramucirumab plus docetaxel versus placebo plus docetaxel for second-line treatment of stage IV non-small-cell lung cancer after disease progression on platinum-based therapy (REVEL): a multicentre, double-blind, randomised phase 3 trial. Lancet 2014;384:665-73.
  6. Hosomi Y, et al. Docetaxel + ramucirumab (DR) versus docetaxel + placebo (D) as second-line treatment for advanced non-small cell lung cancer (NSCLC): A randomized, phase II, double-blind, multicenter trial in Japan. J Clin Oncol 2015;33: 8054 (Meeting Abstracts).
  7. Wolchok JD, et al. Efficacy and safety results from a phase III trial of nivolumab (NIVO) alone or combined with ipilimumab (IPI) versus IPI alone in treatment-naive patients (pts) with advanced melanoma (MEL) (CheckMate 067). J Clin Oncol 2015;33:LBA1 (Meeting Abstracts).