白血病

名古屋市立大学大学院腫瘍・免疫内科学
李 政樹/Masaki Ri
上田 龍三/ Ryuzo Ueda
PDF Download スライドと音声で閲覧できます
Web Cast

急性骨髄性白血病の分子標的療法

 急性骨髄性白血病(AML)は骨髄性幹細胞および前駆細胞がモノクローナルに異常増殖し,正常造血を抑制することで易感染性・貧血症状・出血傾向をきたし,致死的な経過を辿る。多剤併用化学療法ならびに造血幹細胞移植が積極的に行われるが,コントロールできない抗癌剤の副作用および移植合併症の出現,薬剤耐性クローン残存による再発が問題となっている。近年,より副作用の少ない新規の分子標的療法の開発が行われ,あらゆる癌種において臨床導入が試みられているが,とりわけ造血器腫瘍の領域では,白血病・リンパ腫・骨髄腫などの主な血液腫瘍において抗体療法,低分子標的療法がいち早く臨床導入され,画期的な成果をあげている。さらに現在でもさまざまな新規分子標的薬が開発され,臨床試験が目白押しで行われており,分子標的療法は従来から行われてきた化学療法・造血細胞移植療法と同様,造血器腫瘍の治療に不可欠な手段として確固たる地位を確立している。

 急性前骨髄性白血病(APL)においてオールトランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が従来の抗癌剤よりも優れた寛解率・治癒率をもたらしたことにより,APLはAMLのなかで予後良好な疾患に変わっている。一方,APL以外のAMLに対しても表面抗原に対するモノクローナル抗体が研究開発され,CD33抗原に対する抗体療法が再発・難治AML症例に対して臨床導入されている。以下,本稿では現在わが国で臨床導入されているAMLの分子標的薬を概説する(表1)。

表1
わが国で臨床導入されている白血病の分子標的薬

A.オールトランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid;ATRA)

 APL細胞は,疾患特異的な染色体異常15;17転座(15番染体: PML遺伝子,17番染色体: RAR α遺伝子)を有する。その遺伝子産物であるPML-RARαキメラ蛋白はPMLあるいはRARαに対して抑制的に働き,PMLの機能を阻害することでアポトーシス刺激に低感受性になり,またコリプレッサーおよびヒストン脱アセチル酵素と協調しRARαの転写を抑制することで前骨髄球以降の分化が停止することがわかっている。

 ビタミンAの代謝産物であるATRAは,1995年にわが国でベサノイドの商品名で発売された。ATRAはコリプレッサーを遊離させ,代わりにコアクチベータと結合し RARαによる転写活性能を回復させることで前骨髄球以降の分化を誘導し(図12),また,PML-RAR αキメラ蛋白の分解を促進することでアポトーシスを誘導することが報告されている。

 わが国でATRAはJALSG(Japan adult leukemia study group)を中心に寛解導入療法において臨床試験が行われ,9割以上の完全寛解率をもたらしDICおよび脳出血などのAPLに出やすい致命的な合併症を回避できるようになった。一方で,分化した好中球の急激な増加によるサイトカイン産生・血管透過性の亢進により,呼吸障害を中心としたレチノイン酸症候群が問題となるため,現在はATRAに化学療法を併用した寛解導入療法が主体となっている。

図1
ATRA の分子作用機構
図2
ATRA による分化誘導療法(当院症例)

B.タミバロテン(開発品名:Am-80)

 タミバロテンはわが国で開発された新規の合成レチノイドで,APL細胞に対して強力な分化誘導を引き起こす。その活性はATRAの10倍以上といわれ,再発・難治性APLの治療に2005年に認可され,アムノレイク®として臨床導入されている。また,ATRAと同様レチノイン酸症候群には十分に注意を払う必要がある。現在,再発症例に対して使用されているが,今後,初回寛解導入療法への適応ならびに寛解後の維持療法などの幅広い適応の拡大が望まれる薬剤である。

C.亜ヒ酸 (三酸化二ヒ素:AS2O3

 1970年代より中国で民間療法による白血病の治療に用いられたのが始まりで,その後,アメリカの多施設共同試験にて再発APLの85%に完全寛解を導入する結果が得られ,現在,再発APLに対する有効な治療として認識されている。わが国では2004年12月よりトリセノックス®として再発APLの治療に臨床導入されている。亜ヒ酸の作用機序は不明な点が多く,レチノイン酸と同様な分化誘導能とアポトーシスの誘導機序も報告されている。

 亜ヒ酸は寛解に至るまで連日静脈内投与されるため,QT延長症候群や心室性期外収縮などの不整脈が誘発されやすいため,十分に注意を払う必要がある。また,レチノイン酸症候群を呈することもある。

 本剤はレチノイン酸とは違う作用機序なため,現在のところ後述するマイロターグRと同様,ATRAおよびタミバロテンの両レチノイン酸に耐性例などに適用するのが適切な治療戦略であると考えられる。

D.マイロターグ®(化学品名:ゲムツズマブオゾカマイシン,GO)

 正常細胞においてCD33抗原は,多能性幹細胞,顆粒球,単球,および一部の巨核球・赤芽球に発現している。 AML細胞においては8〜9割ほど陽性であるが他の非造血組織では発現は認められていない。

 マイロターグ®はヒト化型抗CD33抗体hP67.6に抗腫瘍活性を有するカリケアマイシンを約2分子結合させた化学療法剤で,CD33抗原に結合後,細胞内にCD33とともに取り込まれて,カリケアマイシンがリソソーム内で外れて,核内へと移行し, DNAに傷害を与える作用機構となっている(図3)。

 マイロターグ®はわが国の第II相臨床試験では,再発AML症例に対し完全寛解率 25%で,寛解導入に要した期間の中央値は62日であった。この結果を受け,2005年に再発・難治性のAMLの治療に認可された。

 マイロターグ®の副作用は悪寒や発熱などのアレルギー症状に加え,高度な血球減少が全例に認められ,易感染性・貧血症状・出血傾向への速やかな対応が重要である。また造血幹細胞移植の既往例や,本剤投与後に移植を施行した症例を中心に肝中心静脈閉塞症が発症しやすいことも報告されており,移植後もしくは移植を予定している症例では本剤投与には厳重な注意を要する。

図3
マイロターグ®の細胞内での作用機序

慢性骨髄性白血病の分子標的療法

 慢性骨髄性白血病(CML)はその95%にt(9;22)(q34;q11)の染色体転座を認め, 9番染色体のAbl遺伝子と22番染色体のBcr遺伝子が相互転座により,小さな22番染色体〔Philadelphia(Ph)染色体〕上にBcr-Ablキメラ遺伝子が形成される。Bcr-Ablキメラ蛋白は恒常的なチロシンキナーゼ活性を有し,基質をリン酸化することで,細胞の増殖およびアポトーシスが抑制され腫瘍化するものと考えられる。1990年代よりBcr-Ablキメラ蛋白を阻害する化合物のスクリーニングが開始され,Novartis社より2-フェニルアミノピリミジン化合物が同定された。後にイマチニブ(グリベック®)と名付けられ,アメリカ・日本で臨床試験を経て承認され,現在,慢性期CMLの第一選択薬に位置づけられているが,イマチニブの登場により,既存治療で得られなかった高い細胞遺伝学的・分子遺伝学的効果が得られ,より副作用の少ない治療が可能になった。以下,本稿ではイマチニブの作用機序,臨床効果,耐性機構について概説する。

A.イマチニブの作用機序

 Bcr-Ablキメラ蛋白は基質結合部位とATP結合部位を有し,ATPのリン酸基を利用して,結合した基質のリン酸化を行う。イマチニブは,Ablチロシンキナーゼの ATP結合ドメインにATPと拮抗的に結合することにより,Ablチロシンキナーゼの活性を阻害し,抗腫瘍活性を示す(図4)。

図4
イマチニブによるBCR-ABL チロシンキナーゼ阻害機序

B.イマチニブの臨床効果および微小残存病変の評価

 イマチニブは,初診慢性期CMLを対象とした,IFNα+AraC併用療法(IFNα群)との比較試験(IRIS試験)において,試験開始18カ月時点で,IFNα群よりも高い細胞遺伝学的寛解率および低い移行期・急性期への進展率を示し,大きな差をもって優れていることが示された(表2)。この結果を受け,イマチニブは慢性期CMLの第一選択薬であるとのコンセンサスが得られている。

 イマチニブによる治療開始後,一定の経過でBcr-AblキメラmRNAを測定し,微小残存病変をモニタリングすることがその後のイマチニブの治療効果の予測に有用であるといわれている。先のIRIS試験では,3 log以上(1000分の1)のBcr-Abl mRNAの減少(大分子遺伝学的効果)を治療開始12カ月の時点で得られることでその後の病期進展を阻止できることが判明している。

表2
IRIS 試験の治療18 カ月での成績

C.イマチニブの耐性

 一部の慢性CMLおよびほとんどの急性転化CMLにおいてイマチニブ抵抗性は短期間で出現する。その機序としてもっとも多いのがBcr-Abl遺伝子の点突然変異によるものである。点突然変異によりBcr-Ablキメラ蛋白の ATP結合部位に構造変化をきたし,イマチニブが結合できなくなり,薬剤耐性となる。このような耐性例に対しては,本年3月より販売された新規のBcr-Abl阻害薬(ダサチニブ,ニロチニブ)の使用を試みることになる。また,若年患者においては造血幹細胞移植も考慮する。

急性リンパ性白血病の分子標的療法

 成人急性リンパ性白血病(ALL)の20〜40%にPh染色体がみられ,その存在は予後不良因子となっている。CMLと同様,ALLにおけるBcr-Ablキメラ蛋白は強いチロシンキナーゼ活性を有しているといわれ,イマチニブはPh染色体陽性のALLにも臨床導入されている。

 再発・難治性のPh染色体陽性の急性リンパ性白血病を対象とした国内の第II相試験では,8例全例に血液学的効果がみられ,87.5%に大細胞遺伝学的効果が認められた。しかし,イマチニブ単剤ではそれらの効果持続は平均2カ月と短く,満足のいく結果は得られていない。現状では,ALLの治療において多剤併用化学療法を凌ぐ有効な分子標的薬は臨床導入されておらず,新規のBcr-Abl阻害薬などの新規分子標的薬の導入が待たれる状況である。現在,JALSG ALL208IMA試験においては,初発のPh陽性ALLに対する寛解導入療法・地固め療法におけるグリベック®と多剤化学療法との併用および地固め療法後の造血幹細胞移植を施行することで,予後不良なPh陽性ALLの生存率の向上を検討している。

おわりに

 わが国で現在臨床導入さている分子標的薬を概説したが,今後開発・臨床導入が期待される薬剤として,各々のチロシンキナーゼをtargetとした阻害薬(FLT3阻害薬など)やヒストン脱アセチル酵素阻害薬,DNAメチル化阻害薬,ファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬など幾種類もの新規分子標的薬がある。これらの薬剤が速やかに臨床導入され,白血病の治療がより効果的でより副作用の少ない安全な治療へと変わっていくことを切に願う。

●文献
1) 三田貴臣,他 :分子細胞治療,メディカルレビュ−社,東京,2005,pp79 〜 88.
2) Kanamaru A,et al:All-trans retinoic acid for the treatment of newly diagnosed acute promyelocytic leukemia:Japan Adult Leukemia Study Group.Blood 85:1202 〜 6,1995.
3) Tobita T,et al:Treatment with a new synthetic retinoid,Am80,of acute promyelocytic leukemia relapsed from complete remission induced by all-trans retinoic acid.Blood 90:976 〜 3,1997.
4) Soignet SL,et al:United States multicenter study of arsenic trioxide in relapsed acute promyelocytic leukemia.J Clin Oncol 19:3852 〜 60,2001.
5) Baccarani M,et al:Evolving concepts in the management of chronic myeloid leukemia:Recommendations from an expert panel on behalf of the European Leukemia Net.Blood 108:1809〜20,2006.
メニューページへもどる
巻頭言.癌分子標的治療とは
胃癌
切除不能・再発大腸癌
消化管間質腫瘍(GIST)
肝細胞癌
肺癌
乳癌;新しい病型分類と分子標的薬剤の使い方
頭頸部癌
腎癌
白血病
悪性リンパ腫
多発性骨髄腫,骨髄異形成症候群