直腸癌骨盤内再発の診断法と治療法の選択

愛知県がんセンター
中央病院消化器外科
平井 孝/Takashi Hirai
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はじめに

 大腸癌の治癒を目的とした治療は,化学療法が進歩してきた現在も外科治療が主役で,その生存成績は経年的に改善傾向にある。とはいえ,治癒切除後の癌再発も少なからず認められる。大腸癌は再発時でも再発巣のみに癌進展がとどまることがあり,このような再発巣に対して切除による根治を考えることができる。

 初再発巣は結腸癌でも直腸癌でも肝転移がもっとも多いが,直腸癌では次に骨盤内局所再発が続く。その頻度は欧米では 14〜30%1)と報告され,わが国の『大腸癌治療ガイドライン』ではRsを除いた直腸で骨盤内再発率は7.6%と報告されている。骨盤内再発の発生機序は,腫瘍が剥離面に露出したり,切離された脈管からの癌細胞のこぼれ落ち(implantation),周囲組織(他臓器,リンパ節,脈管,神経)ヘの進展あるいは直腸腸間膜内癌進展の取り残しによるものが考えられる。腫瘍の広がりによっては,骨盤内臓器全摘術から仙骨合併切除術までの拡大切除術が積極的に行われ,再発巣の治癒的切除が試みられてきた2)3)。しかし,頻度の高い合併症,後遺症およびその効果から,その適応,手技,放射線治療の併用など検討課題が多く残されている。われわれが経験してきた骨盤内再発の現況を提示して今後の診療を考えたい。

自験例

A.骨盤内再発の頻度

 1991〜1996年の当院直腸癌初回単発治癒切除例267例のうち,骨盤内再発は22例(8.2%)に起こった。主占居部位とstage別の発生頻度を表1に示す。Stage Vbでは約20%前後の骨盤内再発を認めている。Raでは側方郭清を行った症例で33%の骨盤内再発をみ,その原因は多様であることが推測される。術式別にも高位前方切除1/51(2%),低位前方切除12/144(8.3%),直腸切断7/59(12%),ハルトマン手術2/10(20%),骨盤内臓器全摘 0/3の骨盤内再発頻度で,低位前方切除と直腸切断の差は少ない。

 再発時期(図1)は,平均570日,中央値522日で,3年で再発の約75%が診断されていた。骨盤内再発とそれ以外の再発(肝・肺転移など)を分けて比較すると,骨盤内再発もそれ以外の再発も時期的な差はほとんど認められなかった。また,再発時の診断法は,直腸指診で腫瘤を触れること,CEA上昇も約1/3で骨盤内再発疑診の契機となっている。表2のごとく診察・問診が再発徴候を最初に確認する方法であったとしても再発治癒切除の行われる頻度は低くはない。

B.骨盤内再発亜部位

 吻合線再発(ハルトマン断端を含む)5例(23%),吻合部近傍5例(23%),骨盤壁再発7例(32%),骨盤内リンパ節再発2例(9%),隣接臓器再発4例(膀胱仙骨1例,子宮腟仙骨3例)(18%)であった。遠隔転移がなく,全身状態もよく,画像診断にて骨盤内に腫瘍が限局していると診断した7例(32%)が治癒切除であった。

 再発亜部位別には吻合線再発 3/5(6 0%),吻合部近傍再発3/ 5(6 0%),骨盤壁1/7(14%),骨盤内リンパ節再発0/2,隣接臓器再発(子宮仙骨)1/4(25%)の治癒切除率であった。初回手術時に全例に側方リンパ節郭清が施行されていた。

 切除術式は直腸切断術 2例,骨盤内臓器全摘術2例,直腸切断術+仙骨合併切除1例,骨盤内臓器全摘術+仙骨合併切除3例であった。

C.転帰

 術後在院死亡は101日(多臓器不全),334日(肝,骨盤内再発)の2例。初再発部位は肺2例,骨盤内再発3例で再発手術後5年生存率14%,中央値870日であった。治癒切除以外15例では,それぞれ13%,574日とほとんど変わらない結果であった。

 治癒切除例以外の主な治療は外照射+化学療法 8例,外照射のみ2例,化学療法のみ2例,無治療3例であった。外照射+化学療法の2例が担癌ながら再発後5年以上生存した。全再発切除例が初回治療時に側方郭清まで行った症例であったことが低い成績の大きな要因と思われる。

D.参考

 ただし,1976〜1995年までの骨盤内再発例では,治療は切除30例,放射線+化学療法36例,放射線のみ14例,化学療法のみ15例,なし11例で,全体の5年生存率は11%であった。切除術式は直腸切断8例,直腸切断+仙骨切除3例,骨盤全摘7例,骨盤全摘+仙骨切除10例,局所切除1例,低位前方切除1例で,直腸切断44%,骨盤全摘+仙骨切除40%の5年生存率が得られている。

表1
stage 別・部位別骨盤内再発の頻度
図1
初再発形式と再発までの期間

表2
再発疑診時の検査法・治癒切除率

手術治療指針

A.適応

 @耐術可能な全身状態,A骨盤内再発巣が骨盤内に限局し最大の術式として骨盤内臓器全摘+第3仙骨以下での切除で完全切除できる,B遠隔転移がないか,あっても完全切除できる,が必須条件である。手術による合併症が多いことや再発巣切除により100%完治できるわけではないこと,骨盤内臓器全摘術や仙骨切除による後遺症の出現について患者が十分納得した上での術式選択となる。

B.再発巣進展度評価

 吻合線再発は大腸内視鏡による観察と生検により確定診断を得る。他の骨盤内再発は CT,MRIにて腫瘤を確認し,CT下生検により組織学的確定診断を得る。また,最近ではPET検査で全身の転移巣を確認することもできるようになり,とくに骨盤内臓器全摘,仙骨合併切除などの拡大切除術を予定する場合には有用な術前検査である。

 骨盤内再発巣の進展は坐骨神経痛の有無(坐骨神経刺激症状は適応外としている), CT・MRIによる第2仙骨より頭側への浸潤の有無(第2〜3仙骨間が仙骨切除の上限としている),また梨状筋から大坐骨裂孔に向かっての浸潤(坐骨神経浸潤の可能性が高い)の有無,多数のリンパ節転移の認められるものは根治性が得られることは困難で手術の適応外である。MRIでは腫瘍がはっきりしている場合,その進展をみるにはT1強調像の有用性が報告されているが,仙骨側への進展をみるには役立つ方法と思われる4)( 図2図3)。

C.側方郭清術後の骨盤内再発

 われわれの側方郭清術後に起こった骨盤内再発に対する切除療法は治癒率が低かった。すでに初回治療で十分な切除が行われたこと,手術操作の困難性もあわせ考えると,側方郭清術後の骨盤内再発に対する手術療法の適応は慎重に考えざるを得ないであろう。放射線治療の既往がなければ今後,重粒子線治療の適応 5)となる可能性が大きい。

D.放射線治療後の骨盤内再発

 同様に放射線治療の既往がある場合,術後の創傷治癒遅延や骨盤死腔感染の頻度は高く,とくに回腸に広範囲に放射線障害が起こっている場合,縫合不全を用心し,尿路変向は回腸導管を選択せず尿管皮膚瘻を選択している。

E.術式

 再発病巣の進展により切除範囲が決定される。前方切除後の吻合線再発が直腸壁内筋層までに限局していると診断した場合,剥離面の癌の露出の有無を確認しながら直腸切断術の適応も十分考えられる。このような場合,骨盤神経叢は切除し surgical radial marginを確保したほうがよい。また,全層に浸潤していることが疑われる場合,その範囲によって骨盤内臓器全摘および仙骨合併切除も適応となる。

 直腸切断術後の骨盤内再発では仙骨面に接している場合,仙骨切除と女性ならば少なくとも腟,子宮合併切除,男性ならば骨盤内臓器全摘を行い surgical marginを確保する必要がある。いずれにしても正常組織で包み込むような切除範囲を予定する。

 術中は剥離面の疑わしい組織は迅速病理診断で癌細胞の有無を確認する。瘢痕内で操作をすることが多く,硬さだけでは判別しにくく,また瘢痕内に癌細胞が散在することもあるので迅速診断は躊躇せずに行う。剥離面に癌細胞が証明できなくても切除が比較的薄い surgical marginであると感じた場合,放射線治療の既往がなければ術中照射(IOR)15〜20Gyを行う。外照射の約1.5〜2倍の照射効果とされている。できれば術後外照射を加え,局所線量が50Gy以上になるようにする。骨性骨盤壁に接した再発の場合,十分なmarginの確保が困難で手術成績も悪いことが報告されている6)

 仙骨切除は,脊椎切除の技術をもった整形外科医に依頼している。腹腔側から内腸骨動静脈の処理が十分行えている場合, 4点架台で腹臥位とし,下大静脈の圧迫を避けた体位では仙骨切除の際の出血量はわずかである(図4図5に背側面からの目安となる靱帯,神経を示した)。

図2
骨盤CT
図3
骨盤MRI(T1 強調)

図4
術中写真

図5
図4 と同一症例の術中写真

おわりに

 重粒子線治療が登場し,さらに化学療法でも新薬が臨床に認可され大腸癌再発治療に新しい展開がみられ,再発治療成績のさらなる向上も期待される。しかしながら,再発をきたさないように初回治療をいかに適切に,施設間格差なく行うかはさらに重要なことである。早期癌に対する局所切除の適応,進行癌に対する適切な切除(側方リンパ節郭清の適応, AWの確保,環周性marginの確保,implantationの予防,術中腸管穿孔の予防など),術後の適切な補助療法の施行である。予防という治療がもっとも効果が高いと考えて治療にあたるべきである。

●文献
1) Pearlman NW:Surgery for pulmonary metastasis.In:Cancer of the Colon,Rectum,and Anus.Cohen AM,et al ed,McGrawHill,New York,1st ed,p857〜61,1995.
2) Wanebo HJ,et al:Pelvic resection of recurrent cancer:Technical consideration and outcomes.Dis Colon Rectum42:1438〜48,1999.
3) 加藤知行 , 他 : 局所進展直腸癌に対する骨盤内臓器全摘術.医学のあゆみ 172:693〜6,1995.
4) 赤須孝之:大腸癌局所再発の治療.消化器外科 28:880〜9,2005.
5) 山田滋,他:直腸癌局所再発に対する重粒子線治療.放射線科学 47:119〜21,2004.
6) Yamada K,et al:Pelvic exenteration and sacral resection for locally advanced primary and recurrent rectal cancer.Dis Colon Rectum45:1078〜84,2002.
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巻頭言 . 「直腸癌治療の諸問題」
直腸癌術前診断の実際
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