発熱性好中球減少症

浜松オンコロジーセンター乳腺科
田原 梨絵/Rie Tahara
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はじめに

 多くの抗癌剤による骨髄毒性の一つとして好中球減少が生じる。好中球減少患者で発熱が生じた場合には,重篤な細菌感染症を併発している可能性が高く,危険な副作用であり,emergency と考えなければならない。経験的抗菌療法が施行されるようになる以前は,化学療法に関連した感染症の75%が死に至っていた。経験的抗菌療法は,白血病やリンパ腫に対して化学療法を受ける患者向けに考案されたが,現在,抗癌剤によって好中球が減少し,発熱したすべての患者において使用されている。

副作用の定義(表1

 絶対好中球数(absolute neutrophil count;ANC) が500/mm3未満,もしくは1,000/mm3未満で500/mm3未満になることが予測される状況下で,38.3℃以上の発熱あるいは1時間以上継続する38℃以上の発熱が生じている場合に発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)と定義される。ANCは白血球数に桿状核球と分葉核球の割合を乗じて算出する。とくに高齢者やステロイドを投与されている患者において,感染症が存在していても熱が出ない場合があるので注意が必要である。そのため,発熱がみられなくても,臨床的に感染症が疑われる場合には,速やかに経験的抗菌療法を開始する。

表1
発熱性好中球減少症

発生機序

 好中球減少患者における感染症の発生機序は,病原体・感染経路・患者の免疫機能と関連する。

A. 病原体(表2

 FNにおける感染源は約30%において同定される。感染が菌血症のみであっても,約25%の患者において同定可能である。同定された感染のうち約80%は患者自身の内因性感染叢から生じるといわれている。細菌性病原体としては,グラム陽性菌が62〜76%,グラム陰性菌が14〜22%であり,多いものとして黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,連鎖球菌,緑膿菌があげられ,嫌気性菌感染は数%と少ない1)。真菌感染はしばしばみられるが,それが侵襲性の感染となるリスクは好中球減少の期間や重症度,長期間の抗生物質使用によって上昇する。ウイルス感染,とくにヘルペスウイルス感染(HSV,VZV)もよくみられる。結核菌の再燃は長期のステロイド使用者や他の免疫抑制状態においては考慮する必要がある。

表2
頻度の高い病原体

B. 感染経路

 抗癌剤によって直接的な皮膚や粘膜のバリア機能の破綻が生じる。抗癌剤による粘膜炎は消化管系全体に生じ,細菌が消化管内の細菌叢から血中に流れ込むこと(bacterial translocation)がFN の主な原因であるといわれている。また,腫瘍や外科的治療によるリンパ系,胆道,消化管や尿管系の閉塞も感染の原因となる。

C. 患者の免疫機能の低下

 好中球減少が重篤であるほど,潜在感染症が生じている可能性が高くなる。ANC が1,000/mm3 未満になると潜在感染のリスクが上昇し,500/mm3 未満でより高率になり,100/mm3 未満でもっとも高くなる。死亡率も好中球減少が著しい場合(100/mm3 未満)に上昇する。また,好中球減少の程度に加えて,潜在感染のリスクファクターとして,
 (1) 急速な好中球数の減少
 (2) 長期にわたる好中球減少(7〜10日間)
 (3) 癌が制御されていない
 (4) 入院を必要とする合併症
 (5) 末梢ラインや中心静脈カテーテルの使用
があげられる。

 患者背景や臨床症状に応じてリスク分類を行い(表3),それによって治療を行う必要がある2)

表3
リスク分類のスコアリング

症状

 好中球減少患者において発熱が生じた場合には,詳細に身体所見をとる必要がある。好中球が0/mm3でも炎症の徴候がわずかにあり得る,ということを常に念頭におかなければならない。

A. 一般的な診察以外の観察のポイント

 1) 皮膚や粘膜

 皮膚所見がしばしば全身感染症の徴候であることがある。発赤,皮疹,蜂巣炎,潰瘍,ヘルペス性発疹,爪周囲炎,粘膜炎,口腔内や扁桃の膿瘍,毛巣病の有無を確認する。

 2) 肛門周囲

 よく視診することが必要であるが,直腸診や直腸温検査はすべきではない。もし肛門周囲の膿瘍や前立腺炎が疑われる場合には,広域抗生物質を投与しはじめてから,ソフトに診察する。

 3) すべての留置ラインや新たに挿入したラインの刺入部

 重篤なトンネル感染の徴候である発赤,圧痛,波動,浸出液の有無を確認する。

 4) 点滴ライン

 注入や採血のしにくさが感染性の血塊のサインである場合があり,点滴ラインそのものが問題なく使用できるかを確認する。

救急対応方法

A. 臨床検査

 表4 にあげた検査をリスクに応じて適宜判断し施行する。その他,個々の臨床症状に応じて必要な検査を施行する。

表4
身体所見/ 臨床検査

B. 治療

 好中球減少患者における発熱はmedical emergency であり,速やかに適切な治療を施行することが重要となる。

 1) 初期評価

 (1)患者背景,臨床症状に応じてリスク評価を行い(表32),治療アルゴリズムに沿って投与経路と抗生物質を選択する(図13)

 (2)選択した抗生物質をできるだけ速やかに,最大量(腎・肝機能に応じて)を投与する。

 (3)バンコマイシンは,その毒性とVRE 産生のリスクを考慮するとルーチンに投与すべきではなく,表5に示すような特定の患者群において検討する。投与を開始しても,培養結果が陰性であれば,72時間後にバンコマイシン投与を終了する。また,再評価ごとにその必要性を検討し,不要の場合にはすぐに中止する3)

 (4)疑われる,あるいはすでにわかっている感染がある場合には,それらをカバーする抗生物質を選択する。

 (5)抗生物質は殺菌的なものを選び,投与は留置型のライン以外の部位から施行する。

 2) 中間評価

 治療を開始してから3 〜5日後に再評価を施行し,状態によってその後の治療を決定する。

 (1)臨床的に安定し,好中球減少からの回復の兆しがある場合→最初の治療を継続

 (2)臨床症状の増悪や新たな症状の出現がある場合→抗生物質を変更あるいは追加

 (3)好中球減少が5日間以上継続することが予測される場合→抗真菌薬を追加

 好中球減少中に死亡した患者の剖検例の多くに診断されていない真菌感染がみつかる。発熱が継続し,臨床的に不安定な患者には,より早期での抗真菌薬の追加を検討する。

 3) 投与期間

 発熱の原因が同定されている場合には,抗生物質は最低その標準的な治療期間継続する。原因が同定されていない場合には,解熱と好中球数の回復を目安に抗生物質を終了する。点滴の抗生物質から広域経口抗生物質へ変更できるかどうかは,発熱の原因部位と菌が同定されており,速やかに改善傾向にあり,かつ好中球減少から離脱していることが条件となる。

 4) カテーテルの抜去

 抗生物質の投与に加えて,カテーテル関連のカンジダ血症や菌血症の患者においては,カテーテルの抜去が推奨される。

 5) G-CSF の投与

 G-CSF の投与によって,好中球減少や入院の期間を軽減させることは多くの臨床試験で示されているが,死亡率の低下にはつながらず,その利益は少ない。発熱と好中球減少の患者に対してルーチンに使用すべきではない。しかし,肺炎,血圧低下,臓器不全のような重症患者や,骨髄機能の回復が遅いことが予想されるような特別な状況下においては検討され得る。

図1
初期治療アルゴリズム
表5
バンコマイシンの適応

以降の対応

A. G-CSF

 未治療の患者に対するルーチンでの予防的投与は多くの抗癌剤において推奨されていない。

 (1)dose-dense やdose-intense 療法を維持するための予防的投与

 (2)前サイクルでFN が生じた場合における二次的予防

B. 予防的抗生物質投与

 ルーチンでの投与は推奨されていない。高リスク患者においては検討される。

C. 外来化学療法での抗生物質の事前処方

 前サイクルにてFN が生じた患者では,内服の抗生物質を1週間分処方しておく。発熱したら内服してもらい,解熱しても1週間内服を継続し,飲みきってもらうよう指導する。

●文献
1) 正岡徹:発熱性好中球減少症,初版,医薬ジャーナル社,大阪,2005.
2) Klastersky J,et al:The Multinational Association for Supportive Care in Cancer risk index:A multinational scoring system for identifying low-risk febrile neutropenic cancer patients.J Clin Oncol 18:3038〜51,2000.
3) Hughes WT,et al:2002 guidelines for the use of antimicrobial agents in neutropenic patients with cancer.Clin Infect Dis 34:730〜51,2002.
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巻頭言「重篤な副作用に適切な対処をするために」
過敏性反応,アナフィラキシー
インフュージョンリアクション
心筋障害(心不全)
発熱性好中球減少症
間質性肺炎
血栓症
薬剤性肝障害,ウイルス肝炎の再活性化
腎障害・腎不全
麻痺性イレウス, 消化性潰瘍などの消化管障害
皮膚障害,手足症候群,爪囲炎
末梢神経障害
救急対応のための外来化学療法室の整備