卵巣癌・子宮癌

慶應義塾大学医学部産婦人科
片岡 史夫/Fumio Kataoka
青木 大輔/Daisuke Aoki
iTunesに登録 PDF Download スライドと音声で閲覧できます
Web Cast

はじめに

 現在,婦人科領域では約20項目の腫瘍マーカーが使用されており(表1),日常診療において腫瘍マーカーは必要不可欠な存在となっている。腫瘍マーカーは,癌細胞または癌に反応した生体細胞から産生される蛋白や酵素,癌関連遺伝子を定量的に測定することにより,当初は簡便かつ迅速な癌の診断を目的として開発されてきた。その測定の簡便さから数多くの検討がなされ,癌の存在診断に加え,原発部位の同定,癌の進展予測,治療モニタリングなどへと利用が拡大されてきている。婦人科領域においては,子宮頸部扁平上皮癌,卵巣癌,絨毛性疾患の診断や治療モニタリングにおいては臨床的有用性が高く評価されている。 本稿では,代表的な婦人科癌(卵巣癌,子宮頸癌,子宮体癌)における血清腫瘍マーカーを紹介し,臨床におけるその有用性と留意点について概説する。

表1
婦人科癌に対する代表的な腫瘍マーカー率

卵巣癌

 婦人科悪性腫瘍のなかで,癌の存在診断の意味において腫瘍マーカーの有用性が高いと考えられるのが卵巣癌である。卵巣癌症例の大部分は,治療開始前の病理組織学的診断が不可能であるために,画像診断に加えて腫瘍マーカーのもつ診断的意義は大きい。卵巣癌に対する腫瘍マーカーの多くは,癌細胞の細胞膜表面に存在する糖蛋白に関連した糖鎖抗原関連腫瘍マーカーと呼ばれるものである。糖鎖抗原関連腫瘍マーカーは,測定系に使用するモノクローナル抗体の抗原認識部位により,コア蛋白関連腫瘍マーカー,母核糖鎖関連腫瘍マーカー,基幹糖鎖関連腫瘍マーカーに大別されている(表1)。

 表2および表3に,当教室における表層上皮性卵巣癌に対する腫瘍マーカーの組織型別陽性率,進行期別の陽性率を示した。

表2
表層上皮性卵巣癌における腫瘍マーカーの組織型別陽性率(慶應義塾大学産婦人科,1984 〜 2006)
表3
表層上皮性卵巣癌における腫瘍マーカーの進行期別陽性率(慶應義塾大学産婦人科,1984 〜 2006)

A.コア蛋白関連腫瘍マーカー(CA125,CA602,CA130)

 コア蛋白関連腫瘍マーカーに分類されるものとして,CA125,CA602,CA130がある。CA125は1981年にBastら1)により作成されたモノクローナル抗体OC-125によって認識される糖蛋白質であり,カットオフ値は一般に35U/mlとされ,婦人科領域でもっとも広く使用されている腫瘍マーカーである。CA125と同様にコア蛋白関連腫瘍マーカーに属するCA602およびCA130は,抗原決定基はCA125分子上にあるがOC125が認識する部位とは異なっていることが判明しており,CA125と同等の臨床的有用性があると考えられている。

 卵巣癌の特徴の一つとして多彩な組織型が存在することがあげられるが,コア蛋白関連腫瘍マーカーは漿液性腺癌での陽性率がきわめて高いことが知られている。当教室のデータでも,漿液性腺癌においてCA125は94.3%,CA602は91.4%というきわめて高い陽性率を示している。また,どちらも表層上皮性卵巣癌全体として約80%の陽性率を示し,進行期とともに陽性率の上昇を認めることから,卵巣癌診断においてはもっとも信頼性の高い腫瘍マーカーと考えられている。一方で,コア蛋白関連腫瘍マーカーの問題点としては,粘液性腺癌での陽性率が低いこと,偽陽性症例(子宮内膜症,月経,妊娠,胸腹膜の炎症性疾患など)が多いこと,他の腫瘍マーカーとも共通することではあるが進行期I期症例での偽陰性率が高く,早期癌発見には適さない点があげられる。

B.母核糖鎖関連腫瘍マーカー(CA72-4,CA546,STN)

 卵巣癌診断に用いられる母核糖鎖関連腫瘍マーカーとしてCA72-4,CA546,STNがある。母核糖鎖関連腫瘍マーカーには,一般に癌特異性が高いという特徴がある。卵巣癌診断においては,粘液性腺癌での陽性率がもっとも高い腫瘍マーカーである。当教室ではCA546を使用しており,そのカットオフ値を12U/mlに設定すると粘液性腺癌において81.4%の陽性率を認めている。このような背景から,卵巣癌診断においてはコンビネーションアッセイが行われることが一般的であるが,現時点ではコア蛋白関連腫瘍マーカーと母核糖鎖関連腫瘍マーカーを組み合わせて測定することが妥当であると考えられている2)

C.基幹糖鎖関連腫瘍マーカー(CA19-9,SLX)

 日常臨床では,基幹糖鎖関連腫瘍マーカーであるCA19-9も広く使用されている。しかし,カットオフ値を37U/mlに設定した場合の表層上皮性卵巣癌における陽性率は50.8%と低く,粘液性腺癌に対する陽性率もCA546には及ばない。また,良性卵巣腫瘍での偽陽性率が高く,卵巣腫瘍の良悪性の鑑別における利用価値は低い。

D.その他の腫瘍マーカー

 癌特異性の高い腫瘍マーカーとして,糖転移酵素であるGAT(癌関連ガラクト−ス転移酵素)がある。卵巣癌と子宮内膜症性嚢胞の鑑別診断に限定したうえで保険適応が認められている腫瘍マーカーであり,良悪性の鑑別に有用なマーカーである。

子宮頸癌

 子宮頸癌には細胞診という確立されたスクリーニング法が存在し,組織診との組み合わせにより早期診断が可能であることから,腫瘍マーカー測定の意義は主に腫瘍の進展度の把握や治療モニタリング,再発診断にある。子宮頸癌の組織型は,約90%を扁平上皮癌が占めており,残りの大部分は腺癌である。子宮頸部扁平上皮癌に対して使用される代表的な腫瘍マーカーとしてSCC抗原があげられる。腺癌に対しては,CA125,CEAなどが用いられる。

A.SCC抗原

 SCC抗原は,Katoら3)によりヒト子宮頸部扁平上皮癌組織より抽出・精製された腫瘍関連物質であり,染色体18q21.3上にタンデムに並んでいる2つの遺伝子(SCCA1およびSCCA2)にコードされているserine protease inhibitor fami1yに属する蛋白質であることが判明している。現在では子宮頸癌をはじめとして肺癌,食道癌,頭頸部癌,皮膚癌など扁平上皮癌一般に広く使用されている。SCC抗原は,月経周期や年齢による影響はないが,乾癬や天疱瘡などの皮膚疾患,気管支炎や肺結核などの呼吸器疾患で偽陽性を示すことが知られている。通常,カットオフ値は1.5ng/mlが用いられる。

 当教室における,子宮頸部扁平上皮癌に対するSCC抗原の臨床進行期別陽性率を表4に示した。SCC抗原値は,一般に病巣の広がりとともに高値を示すことが知られている。カットオフ値を1.5ng/mlに設定した場合,臨床進行期別の陽性率はI期:40.3%,II期:77.5%,III〜IV期:81.8%を示し,進行期とともに陽性率が上昇する傾向を認めるが,早期癌での陽性率が低いためにスクリーニングにはあまり適していないともいえる。腫瘍マーカー値と癌の進展度との関連では,SCC値が4.0ng/mlを超える症例では骨盤リンパ節転移の危険性が高いとする報告があり4),臨床進行期I期においてもSCC高値を示す症例では治療に際しては注意を要する。再発の発見に関しては,子宮摘出後の腟断端部のように病理組織学的検査の可能な部位以外への遠隔転移に対する有効性が高い。

表4
子宮頸部扁平上皮癌における腫瘍マーカーの臨床進行期別陽性率(慶應義塾大学産婦人科,1987 〜 2004)

B.その他の腫瘍マーカー

 CEAは,汎用マーカーとして子宮頸癌に対しても用いられている。われわれの教室のデータでは,子宮頸部扁平上皮癌全体における陽性率は30.3%であった。

 子宮頸部腺癌においては,CA125陽性例およびCEA陽性例はリンパ節転移率が有意に高くなる4)と報告されている。

子宮体癌

 子宮体癌のスクリーニングおよび診断は,子宮内膜細胞診・組織診によって行われる。表5に当教室で子宮体癌に用いている腫瘍マーカーの陽性率を示した。いずれの腫瘍マーカーも子宮体癌全体での陽性率は30%前後であることからも,その診断的意義は乏しいことがうかがえる。子宮体癌に対する陽性率向上のためコンビネーションアッセイも試みられているが,腫瘍マーカーの選択に関して現在コンセンサスは得られていない。

 そのなかで,比較的陽性率の高いCA125やCA19-9を利用して腫瘍の子宮外進展の推定や治療モニタリングなどが行われているが,有用性に関する明確なエビデンスはない状態である。

表5
子宮体癌における腫瘍マーカーの手術進行期別陽性率(慶應義塾大学産婦人科,1985 〜 2004)

A.コア蛋白関連腫瘍マーカー(CA125,CA602)

 CA125は,子宮体癌において中心となる腫瘍マーカーであるが,子宮体癌全体の陽性率は34.9%にすぎない。また,手術進行期とともに陽性率の上昇を認めるが,子宮体癌全体の約6割を占める手術進行期I期症例における陽性率は低い。再発診断に対する腫瘍マーカーの利用の試みでは,CA125(またはCA602)が測定されていた再発例の62.9%において画像検査,細胞診,組織診などによる再発確認に平均2.4カ月先行して腫瘍マーカー値の上昇が認められた5)と報告されている。

B.基幹糖鎖関連腫瘍マーカー(CA19-9)

 CA19-9は,コア蛋白関連腫瘍マーカーに次ぐ陽性率を示し,カットオフ値を37U/mlに設定すると31.5%の陽性率を示した。

おわりに

 卵巣癌および子宮頸癌・体癌の腫瘍マーカーについて,当教室のデータを含めて概説した。婦人科領域に限らず,腫瘍マーカーの利用に際して常に念頭におくべきことは,それぞれのマーカーの「特性と限界」を十分に理解しておくことである。腫瘍マーカーは,数多く検査することによって良好な結果が得られるものではなく,その特性と限界を熟知したうえで臨床情報を加味して厳選することによって,さらなる広がりをみせてくれるはずである。

●文献
1) Bast RC,et al:Reactivity of amonoclonal antibody with humanovarian carcinoma.J Clin Invest68:1331〜7,1981.
2) Nozawa S,et al:A new CA125-like antigen(CA602)recognized bytwo monoclonal antibodies against anewly established ovarian clear cellcarcinoma cell line(RMG-II).Jpn JCancer Res82:854〜61,1991.
3) Kato H,et al:Radioimmunoas-say for tumor antigen of human cer-vical squamous cell carcinoma.Cancer40:1621〜8,1977.
4) 菊池義公,他:子宮頸部の腫瘍マーカー.図説産婦人科VIEW-18 腫瘍マーカー,加藤紘,野澤志朗編,メジカルビュー,東京,1995,pp158〜65.
5) 青木大輔,他:子宮体癌の早期診断法のコツ;腫瘍マーカーによる子宮体癌診断の要点.産婦人科の実際 51:949〜57,2002.
メニューページへもどる
巻頭言.腫瘍マーカーの臨床的意義と今後の展望
甲状腺癌
乳癌
肺癌
食道癌
胃癌
大腸癌
肝細胞癌
胆道癌
膵癌
前立腺癌
卵巣癌・子宮癌